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王国のコラム

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こだわり人[2011.11.30]

『東京スカイツリー』足下のモノづくり/墨田区のこだわり人たち

"モノづくりこだわり人"を追いかけて始まった本コラム。景気の波はもとより時代の空気があいも変わらず重々しいなか、"他人の元気が気になる"と、早くも多くの声をいただいた。この覗き見精神があれば大丈夫。明るい光明が日増しに差し込んでくるというものである。

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『東京スカイツリー』足下のモノづくり
墨田区のこだわり人たち

 こだわり人の第2回目は、来年の5月にオープンする『東京スカイツリー』のお膝元、墨田区のこだわり人に着目させていただいた。墨田区長の山崎氏はHPで "東京の母なる川、隅田川に沿って発展してきた墨田区は下町情緒が色濃い商工業の町です。この町には伝統に培われた確かな技術力や物が溢れています" と語っておられるが、『東京スカイツリー』はまさにその言葉の写し絵だ。高さ634メートル、世界一の自立式電波塔として現代建築の最先端技術を集約。"モノづくりこだわり"の究極の姿を想起させている。

東京に、いや日本に新しい空気を吹き込む『東京スカイツリー』とタカラジェンヌの袴の裾の上に立つハイカラさんを思わせる『東京タワー』

 思えばあの『東京タワー』は、パリのエッフェル塔似でタカラジェンヌの袴の裾の上に立つハイカラさんというイメージだが、こちら『東京スカイツリー』はモノづくり墨田区の皆の衆が"やれいけ、それいけ"で育ちあげた土くささを宿している。豊かなモノづくり土壌の上にさらにたくましき成長の楔を打ち込んだということだろう。あの詩情にとんだ甘い"シャンソン"のメロデイーではなく、皆が一つの輪になった手拍子も元気な"出世歌"が聞こえてくるようではないか。このツリーを設計された建築家も"このツリーは日本の伝統美を生かしたもので、日本刀が持つ「そり」と寺院や神社の柱に見られる中央でゆるやかにふくらんだ「むくり」をイメージした"と語っておられるから、やはりこの地には日本的な空気感がよく似合うのだろう。


ところで、"モノづくりのまち"を標榜する墨田区でもう一つ根付いていこうとしている見所があることをご存知だろうか。
『東京スカイツリー』の足元にできた『すみだもの処』である。墨田区在住の"モノづくりこだわり人"の技術や心意気に深く触れていただこうというものであるが、仰ぎ見る『東京スカイツリー』と道路一つ隔てたところで腰低く構えたその佇まいに、思わず足が引き込まれてしまう。先頃(10月)も、『パルティーレ』(「出発」とか「船出」の意)と名乗る墨田区のモノづくりグループが江戸からの伝統技術の上に時代の新しい空気を取り入れたこだわり品、屏風、畳み、かざり金具、木工家具、江戸切子、ばね、皮工芸、桐たんす、ガラス細工、江戸押絵羽子板、べっ甲、飴工房などを展示・披露されたが、時代を越えたその存在感は感動ものだ。"モノづくりのまち すみだ"のDNAはしかと受け継がれ、隅田川のあのゆるやかな流れのように"モノづくりこだわり人"の想いを永らえられていたのである。そこに記された言葉も嬉しいではないか。"墨田区の持つ魅力や職人技を再発見してもらいたい。そして使う人を笑顔にしたい。それが職人たちの願いなのです"なんて。

屏風、工芸、べっ甲、江戸切子、ガラス細など、"モノづくりのまち すみだ"の思いは一つ


スガツネ工業東京ショールーム5階和コーナー

 そういえば、スガツネ工業の東京ショールーム5階、こだわり金物の和コーナーは是非ご覧いただきたい。400年の歴史を持つ会津塗りの巧みな技術を、現代の工業製品の塗装に活かした繊細で優美なこだわり品"蒔絵パネル"を紹介すると同時に、高級金物「たまづさ」シリーズの魅力を披露させていただいている。あざやかな彩りと磨ぎ澄まされた感触。『パルティーレ』同様、伝統ある技術を現代に活かしていく熱い想いに魅せられることは必至である。(蒔絵パネルは株式会社ユーアイヅの製品です。詳しくはhttp://www.yu-aizu.co.jp/をご覧ください。)


 『すみだもの処』の紹介となると、是非、触れておきたいのが、墨田区が進めるモノづくりの行政施策である。『ものづくり塾』や『すみだ地域ブランド戦略』など、行政と墨田区の住民が一体となって"モノづくりのまち すみだ"に弾みをつけておられる。なかでも特筆すべきはこの区独特の施策として展開されている『すみだ3M運動』である。
 3MのMはMuseum、Manufacturing Shop、 Meisterの頭文字。その大要を簡単に紹介すると、Museumは"小さな博物館運動"と名づけられたもの。墨田区を象徴する産業と文化に関する貴重なコレクションやすぐれた職人技を披露されている。現在、区内に25のミニ博物館(屏風博物館、金庫と鍵の博物館、べっ甲博物館など)がある。Manufacturing Shopは"工房ショップ運動"と名づけられたもの。モノづくりの製造現場と販売店舗を兼ねた新しいショップで、こだわり商品を身近に受け止めていただこうとされている。区内に現在23のショップがある。Meisterは"マイスター運動"と名づけられたもの。付加価値の高い製品を創る技術者を"すみだマイスター"に認定。墨田区の産業を支えてきたすぐれた技術の普及や新しい技術の育成を目的とされている。区内に現在39名のマイスターがおられる。*2011.11現在

 伝統に甘えることなく技術を磨き、現代に問いかけ、次代にチャレンジする。この"モノづくりこだわり精神"を区民と共に浸透・拡大していくなんて本当に力強い。伝統がまた新しい伝統を生み、技、美、そして心をより高みに引き上げていくというものである。"モノづくり日本、どこへ行く"と問われて久しいが、その流れは一向に止まる気配はない。円高、生産コストの低減、グローバル化といった要因が追い討ちをかけている。この先も予断を許さない状況である。そんななかで、仰ぎ見る『東京スカイツリー』の足元で、市井の人々が育てた日常的な"モノづくりこだわり精神"がたくましく息づいていることをいま一度噛みしめたいものである。時代がどのように変わっていこうとも、"モノづくり"こそが墨田区の、いや、この国の元気を呼び戻す礎になっていくのだから。

 いま、スマートフォンの勢いはすごい。モノづくり文化の新しい顔としてすっかり市民権を獲得している。1987年に始めて登場したあのぼってとした携帯電話がわずか20数年で、ここまでスリムで多機能を備えたのである。その携帯電話の進化の足取りを集約した施設『NTTドコモ歴史展示スクエア』がなんと墨田区の両国にあるではないか。もちろん、先に紹介した『小さな博物館運動』の一翼に連なっているのだが、"モノづくり すみだ"はやっぱりお見事!という思いである。

文 : 坂口 利彦 氏