こだわり人[2012.01.11]
琵琶湖の恵みと食卓の安心を守る/滋賀県の『環境こだわり農業』
"『東京スカイツリー』足下のモノづくり―墨田区のこだわり人たち。実感だ。11月の末にツリー周辺を巡り歩いたがあの勢いは本物。2012年は墨田区の吐く息吸う息で決まりだ。だが、こだわりについては
滋賀県の農業に実に見るべきものがある"
こんな声をいただいたので今回は、滋賀県の『環境こだわり農業』に着目させていただいた。
■こだわり人 ファイル003
琵琶湖の恵みと食卓の安心を守る。
滋賀県の『環境こだわり農業』

滋賀県といえばついつい、3つの地形的特徴に目がいってしまう。一つ目はやはり日本一の琵琶湖を擁していることである。京阪神地域の水源として、また湖国農業を支える水源として重要な役割を担っている。二つ目は日本国土の中央、女性たちが気にしてやまないくびれに値するところにあることである。東西を結ぶ鉄道や道路の交通の行き交う要所として、ここは避けて通れない。しかも、その引き締まったくびれがこの地ならではの健康な県民風土を作り出している。三つ目は県の中央にある琵琶湖の周りは平野、さらにその先は1000メートル前後の山が連なっていることである。一種の閉ざされた王国のようなのである。
かつて織田信長はこの地に安土城を設けたのはひとえに"ここの地形に惚れ込んだ"と云われているがなるほどだ。そして、湖国農業について言えば古の時代から米を中心にこの地の持ち味を生かした農作物(近江米、近江の茶、近江の野菜など)を栽培されてきているし、農業を通じて豊かな農村社会や農村文化が構築されてきている。しかも、自然環境の保全について言えば日本の模範的リーダーシップを発揮されてきている。
"これはまずい。湖国農業の健全な発展と琵琶湖などの自然環境の保全をしなければ"
そのためには、農薬と化学肥料の使用量を通常の半分にしよう。農業濁水などを流さないで環境に配慮しよう。それによって、安全で安心できる農作物を栽培していこう。

環境そして食の安心への熱い想い―。これが県民を動かし、平成15年3月に『滋賀県環境こだわり農業推進条例』を制定。翌16年から都道府県初の環境農業直接支払い制度を導入して『環境こだわり農業』を軌道に乗せられたのである。
その推進にあたっては基本的に4つの観点から『環境こだわり農業』への道づくりを示されている。簡単に紹介すると、
① 県は、その責務として推進のための基本計画を明確にすると共に、具体的な環境対応技術を開発し、浸透させる。また、県は農業者や農業グループと『環境こだわり農業の実地に関する協定』を結び、必要な場合は経済的支援を行なう。
② 農業者および農業団体は、その努力として『環境こだわり農業』に積極的に取組み、消費者が望む安心できる農作物を作る。
③ 農業販売業者は、その努力として『環境こだわり農作物』を積極的に販売していく。
④ 消費者は、その役割として『環境こだわり農作物』を率先して購入する。まさに、県民"総こだわり人"である。

生産の前の段階から消費に至るまでの徹底したこだわり。その事業推進の"見える化"を促進するアイキャッチャーが『環境こだわり農産物』認証マークである。農業者や農業者グループが環境農業に取組む概要や生産計画や生産記録を県に申請。妥当と認められたものだけがこのマークの使用ができる
(農業者は該当農地に看板を立てて生産計画通りに栽培していることを報告する。県は現地を調査してそれを確認して、問題があれば改善を促す)。認証マークにはご覧のように"○農薬・化学肥料:通常の5割以下 ○びわ湖・周辺環境への負荷削減"の言葉が添えられている。さらにこのマークのそばには栽培責任者、確認責任者、連絡先などの表記が義務付けられている。これによって、生産者や流通サイドの環境農業へのこだわりを示すことができるし、消費者もこのマークがついていれば安心して購入できる。また、このマークの農産物がよく売れれば農業者や農業者グループはより一層環境農業にこだわっていく。まさにこのスパイラルな循環システムによって、『環境こだわり農業』は深化し、高みへ誘われていくわけである。
※平成22年現在、『環境こだわり農業』の認証面積は約14,000haを突破。このうち水稲では全作付面積の3分の1を越えている。
農業は単に食機能だけの問題ではない。美しい自然の景観機能を持っているし、生物多様性といった問題への対応機能を持っている。もちろん、農林水産省もあの手この手の積極的な施策を展開している。だがしかし、日本で最初に『環境こだわり農業』を条例にされたところに滋賀県の時代性、特筆すべきものがあるのではないだろうか。平成23年(27年までの5カ年計画)にはこの条例に基づく『基本計画』を改定して、さらに『環境こだわり農業』の拡充をめざしており、時代性どころか未来性も大いにありと云うことである。
また、人と人とのかかわりを通じて『環境こだわり農業』を目的に『こだわり滋賀ネットワーク』を開設(事務局:滋賀県庁・JA滋賀中央会)。その広報紙などもずばり『こだわり。』の標題を掲げておられる。
(惣〜つながるブログ〜「こだわり滋賀ネットワークブログ」はコチラ)

新幹線や名神東名高速の車窓から見えるあの豊かな田園風景。その舞台裏には『環境こだわり農業』あり。滋賀県民のこだわり魂が集約されているのだ。いま、滋賀県は"地産地消"と云う観点から『おいしが、うれしが』キャンペーンを進めておられる。地元滋賀で生産されたものを地元で消費しようと云うものである。ここにも地元食材へのこだわり大いにありと云うことだ。しかも、環境にやさしい地元食材の需要喚起を通じて地域ブランドの向上、さらには県民満足度の向上へというロングレンジの絵図を描いておられる。"TPPなどに負けておれないぞ"といった強い意志を見る思いである。
ちなみに、県民満足度といえば、滋賀県にはそれを裏付ける日本一が数多くあるのでそれを紹介しておこう。日本一の自然公園面積(土地面積に対する自然公園面積の割合37.8%、全国平均14.5%)、日本一の老人憩いの家数(65才以上人口10万人あたり83.6ヶ所、全国平均15.3ヶ所)、日本一の住宅増加率(平成15年〜20年末の割合12.6%、全国平均6.9%)、日本一の図書館サービス(県民一人当たりの図書貸出数9.17%、全国平均5.17%)。興味がひかれるのは第1次産業の湖国農業のかたわらで、県内総生産に占める第二次産業の割合が日本一と云うことである。全国平均26.9%に対し滋賀県は46.7%、"日本一のモノづくり県"でもあるのだ。

モノづくりついて云えばもう一つクローズアップしておきたいのが『医工連携ものづくりプロジェクト創出支援事業』である。滋賀県は国が進める地域中核産学官連携拠点構想に『しが医工連携モノづくり産学官連携拠点』として選出されたので、理学、医学系大学の知的財産をベースに産業界、官界、金融が一致協力。"質の高い医療の提供"と"活力のあるものづくり産業の創出"に拍車をかけられている。4次産業も、5次産業も滋賀県民のこだわりでと云うことなんだろう。

滋賀県のこだわりはまだまだ筆致に尽きないが、最後にホットニュースを一つ。いま滋賀県の『環境こだわり農産物』の特別栽培米が注目を集めている(イオングループで販売)。平成23年度新米こしひかり、その名も『龍の恵』。24年の辰年を迎え一口食して、まさに昇り竜の勢いとあいなりたいものではないか。
文 : 坂口 利彦 氏
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http://www.pref.shiga.jp/chiji/kaiken/files/20120410.html
■Youtubeでもご覧いただけます。
滋賀県の環境こだわり農業を学ぶ~「食べることで、びわ湖を守る。」 (小学生・一般向け)
「食べることで、びわ湖を守る。」滋賀県の環境こだわり農産物を紹介 (消費者向け)