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王国のコラム

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こだわり人[2012.04.24]

時間と空間の紡ぎあい。/ 小坂竜氏(スペースデザイナー)

 企業という組織の中で建築設計家やスペースデザイナーが自分の個性を活かしながらクライアントの満足を得る空間を構築する。しかも、それがエンドユーザーの心をとらえる。まさに空間クリエイティブの醍醐味であって、そこに個人の表現力と企業の事業力の一体化を見ることができる。今回はその発展系と自ら名乗るクリエーター、小坂竜氏のこだわりに迫ってみた。

こだわり人 ファイル006

時間と空間の紡ぎあい
スペースデザイナーの 小坂 竜氏

 "竜"なんて、名前からしてその存在感を見せつけられる。環境創造産業のトップ企業である乃村工藝社にあって、商業施設の空間構築をはかる商環境事業本部の推進役を担っておられる(株式会社乃村工藝社 商環境事業本部「A.N.D.」クリエイティブディレクター)。スポーツの世界のプレイングマネージャーということだろうか。小坂氏は企業のポテンシャルを高みに引き上げながら、自らの想いを込めた作品を通じてその存在感を見せておられる。だが、小坂氏は言われる。
"自分の作品を創っている意識ではなく、空間を提供するクライアント、そしてその空間に立寄るエンドユーザー、そしてさらに一緒に関わっているスタッフと共有できる『三方よし』を作り上げているだけです"と。

 ここに小坂氏のこだわりがあるのだろう。自らの作品を残すという内向きスタンスではなく、会社を背負ってクライアント、エンドユーザー、スタッフといった自分を取り巻く外への想いがあふれている。その結果は先頃に商店建築社から出版された書籍『DESIGNER'S SHOWCASE Vol02 Ryu Kosaka』からもはっきりと読み取れるので、その大要をクローズアップさせていただこう(表1)

 まさに、小坂デザインワールドの集約である。そして現在はこれまでの経験の上に立って、さらにデザインフィールドを拡大。店舗にとらわれず環境デザイン、さらにはレジデンス、ホテルデザインにも踏み出しておられる(表2)。

 いや、自らが踏み出したのではないのかもしれない。クライアントが小坂氏を求めているのだ。いや違う。人が集い、行き交う場所が小坂氏を呼んでいるということなのだろう。ちょっとオーバーに言えば、時代の波動が小坂氏の振るタクトを待ち受けているのである。そういえば小坂氏、若い頃は音楽バンドをされていたそうである。

 となると、ここは小坂氏のこだわりデザインワールドをこの身でとくと味わいたいというものである。『DESIGNER'S SHOWCASE ~』で紹介されたいくつかの場所に足を運んでみた。すると案の定である。立ち上げられた空間には人間の深層心理をしかと受け止めた小坂氏の熱い想いが込められている。"空間と出会って、空間に止まって、空間にまた来よう"という空間に対する人々の思い入れが見事に凝縮されているのである。
 例えば一歩立ち寄ると、そこには心がときめく出会いの瞬間が用意されている。日常から非日常の世界への誘いということだろうか、「ケ」の時間が「ハレ」に変わったということだろうか。たちまちのうちに心がマインドチェンジさせられるのである。そして中へ入ると、"今日は余計なことを考えないで、心をご自由に"という呼びかけがある。レイアウト、材質、色、光、音・・・空間を構成するすべてのアイテムが一つの旋律に乗って、居心地のよいハーモニーを奏でている。時にゴージャス感だったり、時にゆったり感だったり、ゲストの心をやさしく包み込んでくるのである。
そして帰りには、"居心地のよいひと時を過ごした"。そんな思いに追い討ちだ。宴の後のあの余韻。"また、ここに戻ってこよう"というブーメラン現象か。出口に向かうゲストに後ろ髪を引かせるのである。

 なるほどだ。"また、行きたい"。いまこうしている私も後ろ髪を引かれている。そこで小坂氏に伺ってみた。"この小坂流こだわりの源流にあるのは何ですか"と。すると、三つの言葉が返ってきたので、そのまま紹介しておこう。

 "とにかくこの仕事の第一歩はクライアントとの信頼関係の構築です。与えられた空間はあくまでもクライアントのものです。私たちはクライアントから空間構成を委ねられているだけです。そのため大切なことは、具体的なデザインワークに入る前にクライアントの望む方向性を共有して信頼を得ることです。空間の役割、機能、期待効果などに対する共通認識ですね"
"二つ目はスタッフワークです。みんなで作っていると云う共通認識とその行動です。私たちの仕事は関わるひとり一人の技能で成り立っているのですから、全員を引き連れての思いで取組みます。だから、私はスタッフや職人さんたちを信じて、納得できるものができるまで、厳しく煽りながら待つというスタンスをとっています。時には半泣きになるぐらいまで追い込みます。すると、何か新しい光が見えてくることがあるんですね"
"三つ目は自分の手で描かせることです。現在は出来上がりイメージなどをパソコンを使って仕上げるというのが多いのですが、私は自分の手で描かせます。線のタッチが太かったり細かったり、色が濃かったり薄かったりで書き手の想いの丈が伝わってくるからです。何かとデジタル志向が空間に奥行や深みを与えてくれるんですよ"

 時代の空気は重い。人の行き交う空間もいま一つ元気がない。そんな停滞する時代の中で空間に求められるのは何だろうか。いけいけどんどんの時代からスペースデザインの第一線を歩いてこられた小坂氏に、あえて聞いてみた。 "商業施設であろうが、公共施設であろうが、そこを行き来する人は千差万別ですよね。これまでどんな人生を送ってこられたか、現在どんな人生を送っておられるのか、これから先どのような人生を送っていかれるのか。結局人それぞれでそこにはとても他人が入り込めないですよね。となると、スペースデザイナーの出来ることはその人の立場になって『こうでしょ!!』と想いを巡らしてあげることしかないんです。つまり、私自身の過ぎ去った時間と現在の手持ち時間とこれからやってくる未来時間をそこに居る最大公約数の人に捧げることですよ。もちろん言うはたやすいがですが・・・ね"。
 確かにそうだ。そこで私は言葉を重ねた。"とすれば、これからのスペースデザイナーに要求されるのは自分自身の生き様という時間を空間に紡いでいくことですね"と。すると、小坂氏は"そうですよ。自分自身の時間を追いかけるんですよ。空間ではなく時間をです。そうすれば結果的に、その人なりの個性あふれる空間が生まれてくるんではないでしょうか"と、目の前の図面にまた手を添えられたのである。

文 : 坂口 利彦 氏

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