こだわり人[2012.12.03]
鉄道ジオラマの果てしなき夢を追って
模型作家という言葉が気になった。何かこの言葉にこだわりを感じる、模型を作りながら、いや模型を題材に小説やエッセーを書かれるのだろうか。宮澤雅文氏。アトリエminamoを経営するこだわりのオーナーである。
■こだわり人 ファイル013
鉄道ジオラマの果てしなき夢を追って
模型作家 宮澤雅文氏
Webで調べると、ジオラマギャラリーという言葉が踊っていたが、いま一つ模型作家の意味がわからない。とにかくお会いしてみたいといういつもの知りたい欲求を抑えることができずに、アトリエminamoのある小田急線の町田駅に向った。途中何度か、小田急自慢のロマンスカーとすれ違ったが、これから鉄道ジオラマギャラリーへ出向くというハズム心の前ぶれだろうか、いやがうえにも期待感が高まってくる。

町田の駅から歩いて約5分。にぎやかな商店街を抜けたビルの2階に宮澤氏のアトリエminamoがあった。ドアの前に立つとガラス越しに鉄道ジオラマが見え、思わず心は少年時代だ。大きさはまったく違うがたちまちのうちに子供の頃によく遊んだ鉄道模型が甦ってくる、これまで博物館やデパートの催しなどで見た巨大なものと違って、スケールは小さいが何か存在感がある。はやる思いで中に入ると2組のNゲージジオラマ模型がお迎えだ。ビルが林立する都会あり、緑に覆われた山あり谷あり、農地あり。その間を行き来する新幹線を初めとする列車や電車の数々。まさに宮澤氏のこだわりに早くも我が身体が揺すぶられる。

<ワンポイント>
Nゲージについて
鉄道模型にはさまざまなサイズがあるが、ゲージというのは2本のレールの幅を言う。日本はNゲージ(9mm)が一般的で、歴史的にはOゲージ(32mm)からHOゲージ(16.5mm)、Nゲージへと大きなものから小さなものへと移り変わってきている。
挨拶も終わり、さぁ宮澤氏にお話しをお伺いしようとしているところに、二人の小学生がやってきた。すると、宮澤氏と二言三言話して、右側のNゲージのパワーパックのスイッチを入れて運転開始だ。新幹線や高架線の列車、山岳ループ線や登山線の電車を巧みに操って目を輝かしている。そしてもう一方のNゲージではすでに線路上にある列車に加え、自分が持ってきた電車を線路の上において走行を楽しんでいる。
線路の長さや列車のスタイル、大きさは違うが、ボクも子供の頃はああだった。時代が進んでも鉄道模型への想いは変わらないんだ。しばし、子供たちの明るい声に耳を傾けていると、宮澤さんも子供たちと一緒になって楽しんでおられる。これは後で聞いたのだが、Nゲージをレンタルで自由に使っていただくようにされているのだ。やはり、スケールの大きな路線を走らせたというお客様の思いに応えてあげるということなのだろう。すると見ていたボクの思いにも火が点いてだ。鉄道ジオラマを上から俯瞰で見たり、目線を下げてホームから出ていく列車のすれ違いやトンネルから出てきた列車を覗いたりと、宮澤氏へのインタビューを忘れさせられてしまっている。
これはまずい。模型作家といわれるゆえんを聞かなければだ。すると、現在52才ですと言われる宮澤氏の言葉がはずみ、「ボクは小学6年生の時にNゲージに出会って、鉄道模型などに興味を持ちましたが、学校を卒業して書店に勤める普通のサラリーマンでしたよ、その後、40代になって鉄道模型の制作を再開、ネットオークションなどに出品していました。やがて作品を目にした業者さんから声をかけられ、本気でプロとしてやってみようということで、秋葉原の模型店に勤務した後、50才を前にこのアトリエminamoを開業したんですよ」だ。だから、ここには宮澤氏の鉄道模型への思いが凝縮されているのだ。 それはビルの一角にこのようなNゲージを設けておられることでも、はっきり読み取れる。HPでも紹介されていたが、鉄道ジオラマを通じて"世代を越えて子供も大人も楽しもう、見て、作って、遊んで"という長年の想いが満ちあふれているのだ。見るとは壁にはテレビのトーク番組に出演された写真やドラマ、CMのロケ地として使われた写真が貼られ、宮澤氏の存在感をより一層大きなものにしているぞ。

そこでボクは伺ってみた。"宮澤さんにとって鉄道ジオラマへのこだわりは"と。すると宮澤氏は二つを上げられたのである。「一つは実物を自分の目線で再現することです。自分が実際に行ったり、写真などで見たシーンを自分の手で再現するんですからね。写真や絵と違う奥行き感、山間部やビルが立ち並ぶ都会の情景、そして、その中を行き来する鉄道をそのまま形にするんですからね、それはもう観察力ですね。もう一つはね、自分がイメージするシーンを新たに作り出していくことです。例えば、南国と雪国を一つにしたシーンでも、過去と未来を越えたシーンでも自分の工作力と相談しながら作り出して楽しむことができるんですからね。工作力に加え創造力ですね」
なるほど。観察力に工作力に創造力か。裏を返すと、鉄道模型の変らない魅力を支えている原点かもしれない。そして、宮澤氏は付け加えられたのである。鉄道模型の楽しみ方には四つあると。「一つは車両などを収集する楽しみです。車種、形式、模型メーカー、鉄道会社、年代、地域などを決めて集める楽しみがありますね。二つ目は運転する楽しみです。テーブルの上でも床の上でも手がるに運転できますね。最近では先頭車両にテレビカメラなどを仕込み遠くからモニターなどを見ながら運転を楽しむと人も増えています。三つ目は車両などを工作する楽しみです。模型メーカーがさまざまな車種のキットやパーツを提供していますので、作りたいものが手軽に作れます。四つ目はジオラマや走行レイアウトを作る楽しみです。都会や山間部などパノラマ的な情景を作り、その中を自分の好きな列車を自由にデイスプレイしたり走らせるんですからね、痛快そのものですよ」
アトリエminatoにいると、まさにこの四つの楽しみが見てとれる。すると宮澤氏は眼を輝かし、「4つの楽しみに加え、もう一つボクなりのこだわりの楽しみがあるんですよ。ハンドクラフトの楽しみ方です。レイアウト・ジオラマなどを作るときに山間部や建物などのストラクチャー、自動車などのアクセサリー、樹木などの情景用品を、不要になった製品パッケージやテープの芯、木の皮など身のまわりにあるもので自分なりに作ってしまうんですよ」と言われたのである。見ると、目の前のNゲージにもその部分が随所にある。まさに宮澤流なのだろう。先の観察力、工作力、創造力に加え、応用力にもこだわっておられるのだ。既製品でなく身近なものを利用するんですから、子供たちに大いにチャレンジしなさいということである。

少し部屋の明かりを消していただいて走る列車の前照灯や電車内の灯り、駅ホームや信号の灯りを見ていると、なんだろう、よく言われる懐古の念ということだろうか。なぜか、傘を持って駅へ父親を迎えに行ったり、駅前で賑わったお祭りへ行った子供の頃が甦ってくる。また、走り回る列車に今の自分や明日の自分が重なってくる。一つの時代を生き永らえている証しがそこに映し出されるからだろうか。すると宮澤氏は言われたのである。「ある面それは、私のこだわりよりも、鉄道ジオラマ自身が持っているこだわりかもしれませんね。人それぞれの想いや生き様を乗せて、運んでくれているんですよ」
すると、なんだろうか、いま、宮澤氏と走る列車を見ていると、もう言葉はいらなくなっている。改めて、模型作家の意味は聞かなくてもいい。ボクの身体がもうすっかり理解している。短い時間だったがいい時間をいただいた。いや、時間に乗せていただいた気分になっていている。そんなボクに宮澤氏のホットな言葉だ。「模型作家としてのボクのこだわりはいま、ここにいることですよ。一人でもいい、友達同士でもいい、親子でもいい。このジオラマを見て、作って、遊んでほしいだけです。そんな中から、一人ひとりの夢が前に動いていけばいいんですよ。夢はいつまでも走らせたいですね」
文 : 坂口 利彦 氏