こだわり人[2013.08.19]
"ジャパニーズ・モダン"のときめきと輝き。
おかげさまで、こだわり人も20回を迎えさせていただいた。ここ数回は江戸桐箪笥に、銀食器に、打刃物にと、伝統の技術を今に受け継ぐこだわり人を紹介させていただいたが、今回は一転。"これからの新たな伝統を創っていくんだ"という独自のクリエィティブセンスで生活の中の美を追い求めておられるデザイナー、浅野真一郎氏に着目させていただいた。
■こだわり人 ファイル020
"ジャパニーズ・モダン"のときめきと輝き。
浅野真一郎氏(シンアサノデザイン・代表)
いいデザインと出会いたい。広告を見ても、日常的な生活品を手にしても、ショップや建造物の前に立っても、ついついそんな想いに駆り立てられる。もちろんその受け止め方は人それぞれだが、デザイン力によって商品を選択したり、いつまでもその空間に居続けたいと思うことは、ちょっとオーバーに言えば人間の本性かもしれない。時に、わが心を見透かしたようなデザインに出会うと、"財布の紐をゆるめてしまう"なんてよくある話だ。

そんなデザイン力への想いを改めて刺激すると言ったらいいだろうか。先々月の6月の末に、東京ビッグサイトで開かれた『東京デザイン製品展~PROTO LAB』には当然のごとく足が向いた。"次の売れるデザインに出会えるプロトタイプが勢揃い"と言われると、もういけない。とにもかくにもこの目で確かめなければと出かけていってお会いしたのが、浅野氏なのである。
会場には照明部門、イス部門、テーブル部門、時計部門、スマホグッズ部門という観点から17名のクリエーターの作品が紹介されていた。正直に言って名前など一度もお聞きしたことのない方ばかりだったが、まさに作品というより商品といった方がいいかもしれない。主催者の言う"厳選されたスタイリッシュな製品が世界中から集まる商談専門展"を絵に書いたような雰囲気で賑わっていたが、まさにこれからの時代を担うかもしれない原石がここにありだ。クリエーターの熱い想いがわが頭のなかにも、唸りを上げて入り込んでくるのである。

その時、ひときわ際立って来場者の目をとらえていたのが照明部門に展示されていた浅野氏の作品なのである。無駄がなくモダンでイタリア的な雰囲気を保ちながら、日本的な和の精神がテイストされた存在感。思わずわが目もそこに釘付けになってしまったが、そのそばにはファニチャーシリーズ『SEN』の一つ、『Hitotaba Lamp』と記されていたのである。
『SEN』という言葉にとっさに『線』というイメージをいだいたので、いささか失礼とは思いつつも『SEN』への想いを浅野氏にお伺いしたのである。すると、浅野氏はよくぞ聞いてくれましたという感じで言われたのである。
「そうです。『SEN』というのは、日本の伝統工芸や模様や象形文字をモチーフにして、2次元の線を3次元の形に表現したファニチャーシリーズのことです。現在、ご覧いただいているのはシリーズの一つである『Hitotaba Lamp』と名づけた照明機具です。秋の稲狩りの時期に刈り取った稲を一束にまとめて吊るしている田園の光景を思い浮かべてデザインしました」
なるほど。単純な2次元の線が3次元の形になったランプはモダンでポップだが、どこか日本的な落ち着いたテイストはそんな風情からくるのだろう。印象的な赤の線のシルエット、その間からこぼれる光もやわらかく、何か喧騒とした今日の一日を癒やし、いい夢を見させてくれそうではないか。「都会的な空間から古民家まで幅広く合わせることができますし、上部の金具を持っていただければ、その時の気分で好きな場所に持っていくことができます」と言われれば、さらに納得だ。
持ち運びが簡単で、置いてよし、吊るしてよしということか。2013年イタリア国際デザインコンペテイション『A' Design Award』で銀賞を受けられているのもわかるような気がする。
ついでに付け加えると、この会場には出展されなかったが『SEN』シリーズの一つである『Kagome Stool』を写真で見せていただいた(左下写真)。籠目か。こちらも赤いシャープな線で構成され、3次元になったときの線が独特のフォルムを作り出し、物言わぬメッセージを発している。思わず、スツールの座り心地を思い浮かべると共に、"オブジェとしても楽しめますね"と浅野氏に問うたのである。
すると浅野氏は言われたのである。

「私のねらいはそこにもあります。実はこちらは『A' Design Award』で金賞をいただいたのですが、直角三角形の線材を使った単純な形で構成しています。上からご覧ください。三角形を籠目模様に組合せただけですが、互いに支えあう"連携美"といったものを表現しました」
金賞に、銀賞。もうこれだけで浅野氏のこだわりが見てとれる。そこで、デザインへのこだわりをご本人の口からお聞きしたいということで、浅野氏に伺ってみたのである。
「私は少年時代を仙台と秋田で過ごした後、アメリカに留学してグラフィックを勉強しました。日本に戻ってからは広告会社に勤め、グラフィックデザイナー&アートディレクターとして広告や販促用のカタログなどのデザインをしていました。その後、2012年に独立して『シンアサノデザイン』事務所を立ち上げたのですが、グラフィックデザインで学んだものを家具やプロダクトに活かしたい。平面の世界を立体の世界にということで始めたのが『SEN』シリーズです」

ポップな洋のイメージを持ちながら日本的な和を感じさせる浅野テイストは、この経歴が何よりも物語っている。多くのクリエーターの生い立ちや経歴が作品に表れるという姿を見てきたが、まさに浅野氏もその典型ということなのだろう。すると浅野氏は家具やプロダクトをデザインする上で特にこだわっているのはと言葉を添えられたのである。「グラフィックの基本的な表現方法であるネガティブスペースとポジティブスペースの関係やビジュアルなコミュニケーション力にこだわっています」と。そして、具体的な展開にあたってはムダを徹底的にそぎ落とし、抽象化された世界を作り出すことに終始していることを強調されたのである。

確かに、『SEN』には浅野氏の想いが凝縮されている。こんな言葉がふさわしいか否かがわからないが、着飾り、これを見ろ的な威圧感がない。何か、禅の人の心を無にする誘いのようなものがある。穏やかで、心やすらぐひと時、まさに浅野氏のこだわりのデザインマインドではないだろうか。
序に付け加えるならば、家具業界を代表する『家具新聞』(6月5日号)が浅野氏をクローズアップし、『SEN』と並んでグラフィックデザイン手法を家具に応用した二つのプロダクトを紹介していたので簡単に紹介しておこう。
一つは端材を出さずに鉄板を余す所なく利用して作った『Olyita』である。規格サイズの四角の鉄板を折紙のように曲げただけのブックスタンドやペーパートレイである。シンプルでムダのないデザイン。環境にやさしいコンセプトに注目が集まっている。もう一つは天然の木のシートを活用した『Kinokami』である。極薄ツキ板を曲げたり、折ったりして作ったティッシュケースは評判で、天然の木の肌触りが喜ばれている。
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デザインの世界は本当に奥が深い。考えてみれば、人間の歴史はデザインの歴史だ。古くはデザインという言葉こそなかったが、人間の進歩、発展は人間の想いや夢を形にしてきた創造力の所産である。そんな中で、浅野氏の言われる「かって、"シンプル イズ ベストという言葉が世界を駆け巡ったが、ボクはいま一度そこに主眼をおいて、これからの私たちの生活美を追いかけていきたいですね」の想いには心底、魅せられるというものだ。
複雑で多様化、多くの事柄が幾重にも、幾重にも絡み合った現代の重層社会にあって、浅野氏の描く"シンプル イズ ベスト"は、まさに時代が求めていた光明であり、次代へのどよめきである。しかも、デザインはシンプルだが、グラフィックデザインから始まってインテリアデザインに、さらにスペースデザインへというデザインフイールの広がりは痛快だ、求心性と遠心性、そこにこれまでの常識や枠にとらわれず、"新たな伝統を創っていくんだ"というアサノデザインパラダイムがおありなのだろう。
点が線になり、線が面になる。そこに新しい風が吹き込み、新しい価値が生まれる。浅野氏が描くこの軌跡図に乗って、私たちもまた今日から明日、明日から未来へと続く進路図を描こうではないか。

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文 : 坂口 利彦 氏