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こだわり人[2013.11.15]

インテリア家具から始まるワールド・パラダイム

 おかげさまで『こだわり人』21回を越え、ある経済ドクターから激励のメールが入った。“結局、こだわり人に共通しているのは『ヒト』『モノ』『こと』への想いですね。このトライアングルのウエルバランスを基盤にしながら、次代への夢をいかに描いていくことですね。そんな意味でワイス・ワイスの佐藤岳利氏のこだわりが面白いですよ”と記されている。
ワイス・ワイスの佐藤岳利氏のこだわりが面白いですよ”と記されている。
そういえば、社名も、佐藤氏の名前も前々から気になっていたものだ。そこで、今回は佐藤氏のこだわりに着目させていただいた。

こだわり人 ファイル022

インテリア家具から始まるワールド・パラダイム
佐藤 岳利 氏(株式会社ワイス・ワイス 代表取締役)

こだわりの街に、こだわりの人

 ワイス・ワイス。英語ではWISE・WISEと記されているが、名前からして何か意味ありげではないか。
 改めて、HPを拝見すると、この社名の由来は人々の豊かな暮らしを提案するブランドで、インテリア家具やインテリア空間を通じて人が手をつなぎ皆で知恵を共有しあって、快適な社会を創っていこうという想いを込めてと記されていた。
これは一度お会いしてという想いが募って、東京の表参道に向ったのである。

 あい変らず元気な街だ。ケヤキ並木に一味違った印象的な店舗やオフイスビル。その間をファショナブルな男女が行き来して、独特の空気感を作っている。もう、40年以上はこの道を歩いているのに、まったく飽きることがない。いつ行っても新鮮で、我が心を刺激してくる。喧騒とした都会の中にあって音が消え、時間がゆっくりと流れている感じが実に心地よい。




 ある意味ではこれは、この街ならではこだわりだろうと思って、これからお会いする佐藤氏のこだわりを重ね合わせていると、案の定だ。失礼かもしれないがこの街の代名詞のような穏やかな雰囲気を漂わせておられる。すると佐藤氏、間髪入れずに「注目いただいてありがとうございます」と、深々と頭を下げられるから恐縮だ。高い志を持って展開されている事業の骨子を最初に伺ってみた。
「現在、私たちは2つの事業を展開しています。一つはオリジナル家具、雑貨のプロダクト事業で、六本木の東京ミッドタウンでは生活雑貨の専門店を、そして表参道店では家具、インテリア製品の販売を営んでいます。
 2つ目がホテルや店舗や住宅などの設計、施工、コンサルティングサービスをおこなう空間プロデュース事業です。
 六本木、表参道両店舗には特徴があって、六本木では日本の伝統工芸産地や工房、作家とコラボして、日常使いの伝統工芸を提案しています。また、表参道では家具の販売を行なうかたわらで、社会的活動をしている人、団体、会社にコミュニテイースペースとして活用していただいています。ソーシャルな活動をしている人同士が出会い、連携し合うことをお手伝いさせて頂くことで、お役に立ちたいと思っています。」と熱い。



生産者の面から、利用者の面から、こだわりはつきない。

 そして付け加えられたのである。「その根底にあるのは、人が人と手を取り合って進むというコミュニケーションカンパニーへのこだわりです。インテリア家具から出発してライフスタイルの提案企業へ。私のこだわりは『モノ』は家具であり、『ヒト』は生産者であり利用者であり、『こと』は次代を見据えたさまざまな提案です」
佐藤氏のワイス・ワイスという言葉にかけた想いが改めて我が身に入り込んでくる。『ヒト』『モノ』『こと』が佐藤氏の頭の中で見事にグランドデザインされているのだろう。となると、それを裏付けるように推進されている生産者の面から、また、利用者の面からと言われる“佐藤イズム”である。
「生産者の面からは、生産地の方々と長期的かつ協力的な人間関係を結ぶことにこだわっています。お互いに信用を築いていけるようなお取引を大事にしています。一度取引を開始したら、とことんお取引きを続ける。長い年月の間には社会情勢も変化しますし、お互いの会社の状況も変わります。それでもお互いの会社の成長、発展を願いながら長期的なお取引を模索することを基本としています。」

 一方、利用者の面からもお客様との長期的な人間関係に、徹底したこだわりを見せておられる。
「家具は長く使ってもらってこそが、本当の価値です。そのため、私たちの企業マインドや製品への想い、そして家具を作る生産者の事業力、技量、商習慣などをすべて包含した上で、お客様と向いあいます。そうでないと、長きに渡る真の満足をお客様にお届けできないという思いです。その結果、一つの到達点として辿り着いたのが人と人とのつながりを大切にした『しあわせな家具』というコンセプトです」
 “しあわせ家具”。一見、なにげない言葉だがイメージが広がる。お伺いするとフェアウッド100%、出来るだけ国産木材を使うという想いから誕生した家具をこのように命名されているのである。

「フェアウッドとは簡単にいうと、伐採地の森林環境、生態系や地域社会に配慮した木材や木材製品のことです。ところが、この日本は違法伐採木材の輸入や消費割合が世界の先進国の中で群を抜いて高いのです。しかも国内にあっては何十年もかけて育ったりっぱな森林は放置され、我が国の木材自給率はたったの28%であり、今日本には有史以来最大量の木材が蓄積されているのです。一件、緑豊かでいいように思われていますが、ところが実態は真逆で、陽の光が届かない鬱蒼とした森林にはもやしのような木々が育ち、台風、大雨で山が崩れ、土石流が発生し、自然災害による多くの犠牲者が毎週のように報道されています。自国にある大量の木々は使わないで、違法伐採までして外国の木材を大量に輸入して消費しているなんておかしいと思いませんか。この矛盾を解消するために製品化したのが人と自然、人と人とのつながりを大切にしようという『しあわせな家具』なんです。
2009年の春には国際環境NGOの指導の下にロードマップを作り、“地球環境や子供たちを考えた家具作りに変えます“というグリーン宣言をしました」

 なるほど、まさにそこに世界の違法伐採木材を抑え、国内の木材産業の活力化という佐藤氏のこだわりが見て取れるではないか。



夢と希望があるから、時代は動いていく。

 ところで、佐藤氏は東日本大震災を契機に、“家具づくりを被災地で”というスローガンを掲げ、それを具体化されているので、その想いを伺ってみた。
「大震災の直後の4月に、環境ビジネス情報紙『オルタナ』から復興リーダーを訪ねる誘いがあったのでそれに参加したんです、その時、お聞きした復興リーダーの“もう、服も食べるものもある。後は自分たちの力で復興したい。そのためには仕事が必要である、だから仕事をつくって欲しい、家具屋なら家具をつくる仕事を出してくれ。全員を救えなくとも一人でも救って欲しい”という言葉が衝撃的だったんですよ」
 すると佐藤氏は、“よし!”ということである。復興リーダーから紹介されたある製材所が被災地というひどい状況にもあるにもかかわらず、従業員の雇用を必死に守ろうとしていた。そもそもその製材所は木材の加工などに重油や防腐剤をいっさい使わず、廃材を使って燻製乾燥したり、ペレット燃料を作ったりといった環境配慮型の先進的な製材所であった。こんな工場を潰してはいけない、たった一人をなんとかしよう。世に言う、手を差し伸べる決断をされたのである。

「自分は経営者であると同時に、一人の人間であり、家に帰れば父親です。昔から“World&Peace”という言葉を口にしてきました。人は誰でも幸せになりたいと思っているし、平和を望んでいます。にもかかわらず現実は、世界のどこかで戦争があり、環境破壊は進み、企業活動の影には苦しみ、病み、絶望をしている人たちがいます。行き過ぎた経済優先社会、マネーの暴走、相手のことを思いやる想像力の無い、そんな社会に今、私たちは暮らしているのです。
でも、私たちは仕事を通じて、日々の暮らし、例えば消費という行動を通じて、社会を、世界を変えることができるのです。私たちの企業であれば、生産工場、取引会社、お客様、地域の人々と密接に手を取り合うことです。インドネシアで、東北で地震があったら“そっちは大丈夫か?”と心配することは当然のことですよ、ね。一人ひとりのそんなつながりがその先の人につながって行く、1対1のつながりが1対60億のつながりになっていくんです」
 確かにそうだ。なんだろうこのすかっとした気分。広い、深い。インテリアの家具やインテリア空間の先に世界の平和を見る。いや、世界平和のために『モノ』があり、『ヒト』があり、『こと』があることを改めて、教えられたようだ。
多くの有識者がちょっと危ない日本、世界秩序の崩壊を指摘されるいま、佐藤氏の身体の芯から流れ出るマグマが我が身を包み込んでくる。しかも、そのマグマは肌をむき出しのぎらぎらしたものではなく、穏やかな音楽のようにやさしく我が身に響き渡ってくる。するとボクは『ヒト」『モノ」『こと』の潤滑油は、よく言われる『お金』ですかと伺ったら笑われた。
「違いますよ。夢と希望ですよ」
 そうか、佐藤氏の究極のこだわりは「夢と希望」か。



文 : 坂口 利彦 氏