こだわり人[2014.01.10]
世界シェア70%、電動木彫機へのこだわり。
“日本のものづくりを学ぶなら、東京ビッグサイトに行け!”こんな言葉を裏づけるようにここに行けば年がら年中、IT、自動車、建設、エネルギー、環境、機械、生活用品、アパレルなどなどの「展示イベント」が開催されているので、ものづくりの今が幅広く享受できるというものだ。
そんなときに目に飛び込んできたのが、電動木彫機の世界シェア70%を占めるという東京オートマックという企業である。さっそく、社に帰りHPを拝見すると身が絞まる思いだ。何とそこには杉山治久社長をトップに従業員数20名、超振動技術で世界を制覇したと記されていたのである。
ということで今回は、東京は品川区の旗の台にある同社に着目させていただいた。
■こだわり人 ファイル024
世界シェア70%、電動木彫機へのこだわり。
東京オートマック株式会社(取締役社長 杉山 治久氏)
●世界から注目を集める、町会社のオンリーワン技術。
今から40数年前である。旗の台という名を聞いたとき、その地名の由来が気になり調べたことがある。すると旗の台は、" 下総で乱を起こした平忠常を平定するため、源頼信が源氏の白旗を立てて戦勝を祈願した所 "と記されていたのである。そんな力強い土地に世界を制覇した電動木彫機の専門メーカーがあるなんて、勝手な歴史の綾を思いながら東急池上線に乗って旗の台駅へ向ったのである。

なんだろうこの空気感は。初めて降り立った駅だが、駅前から広がる商店街の趣きが実にいい。昔ながらの庶民の街の雰囲気で、この街の日常的な姿が頭の中を駆け巡り、身体が何か和らぐ。店先で話す店主と買い物客との姿も絵になって、こんな商店街に本社を構える東京オートマックに対するイメージがいやが上にも高まってくる。
すると、旗の台の駅から歩いて2分。" 超振動技術の東京オートマック "という社名が刻まれた木彫りの大きな看板だ。
なるほど。自分たちの電動木彫機で彫った社名看板を掲げるなんて。もうこの看板が東京オートマックのすべてを物語っている。まさに、心地よい先制パンチを受けた思いだ。そして、受付になっている2階に上ってドアを開けると、第二のパンチだ。仏像、動物、盆栽、置き物などの木彫品がにぎやかにお迎えだ。1本の木が人の手によって新たな生命を宿している。木の温かい感触を感じながら、案内された打合せの部屋に入ると、さらに強烈な第三のパンチだ。
(後でわかったのだが)この会社の電動木彫機で創られた木彫品が部屋に所狭しと飾られている。しかも壁には電動木彫機を使って工芸品などを創っている人のさまざまな写真や手紙が張ってある。すべて、東京オートマックの電動木彫機を使った彫刻家や愛好家が送ってこられたというから、東京オートマックがいかに愛され親しまれているかがわかるというものだ。そして、要所要所に世界一の商品が置かれているのだから、ある面では木彫品のミニ博物館の装いなのである。


●超振動技術へのあくなきこだわり
お会いした杉山社長は挨拶もそこそこに電動木彫機を私に渡し、「彫って御覧なさい」だ。もちろん電動木彫機を持つなんて初めてだ。子供の頃に小さな彫刻刃でゴム版づくりをしたことがあるが、グリップの持ち心地もよく何か彫刻家になった気分になってくる。そして杉山社長の言われるままに用意された大きな板に刃を当てると、力などまったく入れることなく、刃先がどんどん我が手を引っ張って行ってくれる。彫った表面もシャープで滑らか。木と向かいあったこちらの気持を何か高みに引き上げて行ってくれるようなものがある。
操作は簡単、高速な削り、音も静か。もうこれだけで製品に対するこだわりが見てとれる。その後も、大小さまざまな電動木彫機を試させていただいたが、これらが世界の70%を誇るブランド品かと思うと、杉山社長のあくなきこだわりに心がときめかされるばかりだ。
すると、杉山社長は現在、提供されている製品のカタログを示しながら言われたのである。
「木彫と言えば、ノミや木槌を持ってというイメージが描かれるが、現在は圧倒的に電動木彫機ですね。プロの彫刻家や工芸家はもとより趣味でおやりの方も電動木彫機を使っておられます。基本的にはすべての作業を手彫りでやるより時間が短縮できる。その分、木彫品に対する自分のイメージを膨らませることに時間が取れると評価をいただいています。
そのため私どもはお客様の実際に使われる場を考えて、現在、プロの方の業務用から趣味などで使われる一般用まで、大小7つのタイプを提供させていただいています。ハンディータイプとしては4機種(ハンドクラフト、チーゼルワイス、ハイホリデー、木ホリデー)、シャフトタイプとしては2機種(ウッドカーバ、ハンドメイト)があります」

そして、言葉を添えられたのである。
「マスコミ等ではしばしば超振動技術で世界を制覇した東京オートマックと紹介されますが、この技術のもっと大きな特徴はハンディータイプの最もポピュラーなハンドクラフトで言いますと、手にしたこのグリップのモーター部の先の振動ヘッドが1秒間に200回以上振動します。この高い超振動が私どもの売りです。徹底的にこだわり、世界で始めて超高速の電動木彫機を完成させたんです。
超高速の秘密は簡単に言いますと、振動ヘッドの裏側に鋼球があり、モーターシャフトの先端にそれを受ける傾斜がついています。これを木にあてて押し込むと、傾斜の高い部分で鋼球が自由に転がり高い振動数を発するようになっています。
振動ヘッドには丸型や平型などの刃先が5種類と更に替刃として33種類用意していますので、自由に取り替えて使えます。また、この振動へッドは回転ヘッドにワンタッチで交換できる穴開けや回転切削などの回転工具が使えるようになった優れものなんですよ」
まさに、超振動技術に対するこだわり、ここにありだ。しかも、回転力の特徴も取り入れ切削や切断など荒削りに最適なゴーゼログラインダーという商品にも生かされ、先端を直径50mmという小径カッター(ダイヤ製、超硬合金製刃物)にして、細部加工が容易でコンクリートから木材まで加工できるマシンも開発している。
●特許に裏づけされた確かな技術が時代を創っていく。
連続深彫、重切断、無段変速万能・・・云々、普段あまり聞きなれない言葉が次ぎから次へと頭の中に叩き込まれていく。「パワー源のモーターは独自開発の高出力のもので、高出力化に伴う発熱対策として放熱のよいアルミボディーを使っています。ベアリングやカムなどを使った機構もすべて私どもの特許です」と言われると、もういけない。言葉を追いかけるだけで、杉山社長の製品への情熱、性能へのこだわりに完全に打ちのめさせられそうだ。すると、杉山社長は傷ついた私にタオルを投げるように、" 私のこだわり "といったことで、今日に至るご自分の経緯を話し出されたのである。
「私は大手のエレクトロニクスメーカーでマイクロ波衛星通信の生産技術や生産設備の開発を担当していましたが、将来、独立したい夢があったので、在職中に中小企業診断士と技術士の資格を取得しました。そして33才の時に計画通り退職して、経営・技術コンサルタントとして仕事を始めました。そんなときに出会ったのが産業機器メーカーのスギノマシンの子会社だった東京オートマックだったんです。
ところがこの会社社員は5名で赤字続き。倒産寸前だったんですが、超振動技術は高い評価を受けているのが魅力で、この会社の株式20%を取得して役員として入社したんです」

計画通りに退社して独立なんて。モノづくりへのこだわりの前に杉山社長の人生のこだわりを垣間見るようではないか。
"その後の話を要約すると、技術は一流なのにそれを販売に結びつけ、利益を生み出す体制になっていない東京オートマック。この会社を立てなおすにはまず調達コストの低減を図ることだという目標を立てられたのである。その一例が電動木彫機のモーターの部品などを大手の上場企業に発注していたという問題である。これでは企業の力関係で大手の条件下で部品を納品させられるということになっていたので、それを廃止。極力社内で生産するようにされたのである。また、外注先も原点に立ち返ってすべてを徹底的に見直しされたそうである。
調達コストの目途がつくと、第二のテーマとして取組まれたのは製品開発である。これまでの業務用に加え、お手頃価格の一般消費者向けの商品を開発し、電動木彫機のマーケットを広げることに終始されたのである。その結果、杉山社長が入社してから1年半で黒字に転換。「以来、現在まで黒字を維持させていただいています」と語っておられる。
その間、1995年には大手の産業機械メーカーが東京オートマックより2割ほど安い価格で、東京オートマックの製品を中傷するビラまで撒いて電動木彫機の市場に参入して来たことがあったそうである。だが、" 正しい製品情報 "といった手紙など5万通を販売店やユーザーに送って必死に抗戦。その結果、数年後にはその大手メーカーは市場から撤退して行ったので、「自分たちは間違っていなかった」ことを改めて再確認できたそうである。
製品への思い、会社への思い。杉山社長のそんな熱い思いがさらに開花し、スギノマシンから東京オートマックの株式をすべて買取られたのである。

今日に至るその道のりは想像して余りある。中小企業診断士、技術士の資格の上に立って、大手企業を前に、あるいは世界を前に何をやらなければならないのかを常に描き、挑んでこられたのだろう。しかもそれが悲壮感でなく、明るく陽気にということが、その物腰からはっきりと見てとれる。そこで、聞いてみた、その躍進の原動力を。すると、奥の書棚から分厚い資料を持ってきて言われたのである。
"「現在、私どもが保有している特許の一覧です。その数は30件以上に及びますが、小さな企業でもやればできるんですね。まさにオンリーワンの技術です。たった一つの技術でも大手企業に負けることなく、世界へ向っていけるんですね」
改めて、杉山社長のこだわりに教えられる。現在。電動木彫機で培われた超振動技術をコアに、ビルの塗装膜や外装タイルを剥がす電動剥離機、金属のバリや研磨をする電動ヤスリ機なども手がけておられる。そして今後は介護製品や医療製品にも応用していきたいと、超振動技術の新たな展開を描いて熱い。
"よし、これなら、機械音痴の僕でも使える"だ。ハンドクラフトを一つ帰りに買わせていただいた。数ヶ月後には、"ボクの木彫り作品をこの部屋に飾っていただくぞ "と心して。
文 : 坂口 利彦 氏