こだわり人[2014.04.08]
高架下から始まる、新しい街づくり
“ものづくりへのこだわり。まさに元気な日本の写し絵だ。伝統的な技術を生かした工芸品に日常品にインテリアに、改めて日本人の底力を感じる。そこでどうだ。少し視線を変えて、これまでの集積の上に新たな発想で次代への夢を描いていこうとしているJR東日本のこだわりは、面白いよ”のメールをいただいた。
その内容を確認させていただくと、『中央ラインモール』構想という。ということで、今回はそのこだわりのある構想を推進される社名もそのまま、株式会社JR中央ラインモールに着目させていただいた。
■こだわり人 ファイル026
高架下から始まる、新しい街づくり
株式会社JR中央ラインモール
未来型のこだわりミッションに心が弾む。
JR中央ラインモール。正直、耳にしたことがなかったがJR東日本が100%出資する企業である。その事業目的を見ると、HPに"街がつながる連続立体交差事業を契機に、緑と文化のあふれるJR中央沿線に生れた高架下空間、三鷹から立川に至る全長9km、約7万㎡において、人と人、人と街、街と街。過去から未来へ『つながる社会』を創り、心豊かな社会をめざします"と記されていたので、これは気になるということだ。というのは、私事で恐縮だが、JR中央線の武蔵小金井に10数年住んでいたし、いまもよく利用するので、あの出来あがった高架利用に興味があったので。やっぱりということだ。新宿から西にあの一直線の高架下に新しい生活文化のラインができるなんて、まさに未来型のこだわりミッションを見る思いである。

これはお話しを聞かなければだ。あいも変わらない知りたい欲求が抑えきれずに、武蔵小金井駅にある本社を訪ねたのである。
かつて武蔵小金井駅は南口は三角屋根、北口は跨線橋でちょっとノスタルジックな駅舎だったが、今では昔の面影などまったく感じさせないモダンな2階建ての駅舎に変わっている。南口の駅前もすっかり模様替えしているし、北口も大変貌していく槌音を響き渡らせている。その駅の東側、さんざん物議をかもし出していた開かずの踏切もなくなっている。朝のラッシュ時など踏切を前にした学生や通勤する人。また長い列を作った車の運転手にずいぶん同情したものだが、見事に解消されているのである。しゃれではないが、中央線の高架化の効果が見事に現れているのである。

しかも駅の左右にできた延々と続く高架下の空間、ここから『中央ラインモール』構想に乗って『つながる社会』への楔が打ち込まれていくことを想像すると、こちらまで夢追い人の気分になってくる。沿線から街の新しいリズムが聞こえてきそうだし、何か新しいライフスタイルの到来を予感させる。
開発コンセプトは『緑×人×街 つながる』
駅、そして高架から明日が見える。尽きせぬ想いを巡らしながらドアを開けると、社長の鈴木幹雄氏と業務推進本部・担当部長の上野 恭氏に迎えられたのだから恐縮だ。もうこれだけで、『中央ラインモール』構想に対する熱い想い入れが伝わってくる。

一言一言、言葉を大事に話される鈴木社長の想いがどんどん我が身体に入り込んでくる。そして、「具体的な事業としては武蔵境、東小金井、武蔵小金井、国立の4駅とその前後の高架下エリア、加えて西国分寺駅の開発と街づくりに取組みます」と言われると、もういけない、いま一度、武蔵小金井に住んでみたくなってくるばかりだ。すると、上野氏が三色のハートにnonowaと書かれたマークを見せながら言われたのである。
「武蔵野のわ、"環、輪、和"になりたい。そんな思いからこのプロジェクトを『ののわ』と名づけました。それを象徴したのがこのマークです。武蔵野の土の上に育つ緑と流れる豊かな水、その重なりから生れる心の触れ合い。ハートですよね」

重なりつながりから生れる心の触れ合い。まさに日本の心だ。自然あり、人あり、文化あり。それを駅から、高架からアプローチしていくなんて、まさに未来進行形のこだわりバリューではないか。ともすれば開発一辺倒で、土地を掘り起こしたり、そこに根づいた文化や伝統を壊していくスタンスではなく、いまある駅や路線の下にできあがった高架を新たな資産とし、地元の自治体や住民と対話しながら活用していこうというのだから、『中央ラインモール』のハートここにありだ、勢い、そこから生れる具体的な沿線価値について伺ってみたいということだ。
「1月末現在で、nonowa西国分寺、nonowa武蔵境、nonowa東小金井が誕生していますが、線路があることによって南北に分断されていた街がつながったので両地域の流動が活発になってきています。また、高架下にショップやイベント広場や回遊路を設けたので東西もつながり、縦糸と横糸の紡ぎあいから新しい布が生れるように街に新しいコミュニティが生まれています。
今後は公共施設や教育・文化施設や娯楽・スポーツ施設などを沿線自治体と連携しながら強化、拡充していく予定です。例えば、地元の大学などと連携したカルチャーイベントや商店と連携した賑わいのある商空間の演出、保育園や子育てサービスを充実し中央線の『子育て応援ライン』、快適で安心して歩ける高架下の歩行空間『ランブリングウォーク』、健康を支援する『メディカルモール』など、楽しみにしてください」
すべての出発点は地域の人々との信頼性づくり
構想が確実に形になって動き出していることが、鈴木社長のこの言葉からもはっきりと伝わってくる。すると、上野氏が去る1月27日(2014年)にオープンしたnonowa東小金井の写真を示しながら「ここには、地元の観光やイベント案内をする『コンシェルジェ』を設けましたし、自転車の快適な利用を応援する『コミュニテイサイクルサービス』を始めましたが、いずれも非常に喜ばれています」だ。

nonowa東小金井の1年前にオープンしたnonowa西国分寺についても写真を見せながら「ホーム・コンコースフロアと改札口の外にかけて広がる商業施設で20店舗に出展いただいていますが、店舗全体をアメリカのフロンテイア、西部開発時代の『ウエスタン調』に統一したことが特徴です。西国分寺は奈良東大寺の出先機関であり、大和王朝の開拓地であった武蔵国分寺跡の最寄り駅ですから、当時のフロンテイア精神を想い浮かべていただきたいということです。地元に溶けあった街づくりですね」だ。

中央線の沿線価値。次から次へと飛び出してくる街づくりの事業プロジェクト。
そこには、いま多くの企業が力を入れるソーシャルビジネスとは一味違った力強さと穏やかな音色を感じるではないか。
未来好き、街づくり好きなこちらはたまらない。わくわくどきどき気分になっていると、鈴木社長は「JR東日本の駅、および駅周辺の開発は、これまでは駅は駅、エキナカはエキナカと点の発想でしたが、『中央ラインモール』構想は、線や面の発想です。エキ、エキナカ、高架下、すべてをトータルにコーディネートしていくことに主眼をおいています。しかも沿線の住民と一緒になってですよ」と言って、ジェイアールイーストという広報紙を出されたのでそこに綴られていたJR東日本 常務取締役の森本雄司氏の『まちの魅力を高める』一文を紹介させていただこう。
"まちには独自の歴史や文化があります。魅力的なストーリーを積極的に発信し、まちの持ち味を発揮させることが大切だと思います。住んで楽しい、訪れても楽しいまちをつくり、より一層多くの人々に、まちに出てもらうことです。(中略)そのためには、地域の方々との信頼関係を作れるかどうかです~"
東京の東に生まれた『東京スカイタワー』は縦に伸び、西に生れた『中央ラインモール』は横に伸びる。東京に新名物の誕生だ。
思えば、昭和の香りを永らえる有楽町の高架下の人情もいいが、平成の新たな人情を創っていく中央線の高架下の人情もいい。高架下の恋、高架下の愛、高架下の絆、さて、どんな人間ドラマが高架下から生まれていくのだろうか。快適で、心はずむ明日に人々を運んで行ってもらいたいものだ。街がずいぶん面白くなってきたぞ。
文 : 坂口 利彦 氏