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こだわり人[2014.06.12]

ロマンとこだわりは、背中合わせ。

 ロマンという言葉が次第に遠ざかっている。"残されたのは宇宙と海底だけだ、夢も希望もない時代だ"の声が老若を問わず飛びかう現在だ。それを嘆くかのように、先頃亡くなられた「失楽園」などで圧倒的な存在感を示された渡辺淳一さんから「ロマンは一生もの。あの世に行くまでロマンな恋などしてないと」なんて言葉をお聞きしたことがある。
 そんな折に、ロマンあふれる海底が育てた熟成ワインというメールをいただいたので、今回は渡辺さんに想いを馳せながら、ワインへのこだわり人を紹介させていただこう。

 

こだわり人 ファイル028

ロマンとこだわりは、背中合わせ。
海底熟成ワイン『SUBRINA』


●海から麗しき女性をよみがえらせる気持を、いまここに。

 海底熟成ワイン。もうこれだけで何かロマンを感じざるを得ない。というのは、"沈没船から引き上げられたシャンペンが貧国を救った"とか"大航海時代に湊から湊へと運ばれた酒が人々の交流を深めていった"という言葉に底知れぬロマンと夢を感じるからである。また、子供の頃に聞いた帆船メアリー・セレスト号から食べかけの食事にワインなどが手つかずのまま残されていたという謎の幽霊船の話やアトランティス帝国が海底に沈んだという話を聞いた時、海の底への恐怖を感じると共に雄大なロマンを描いたものである。

 その海へのロマンを"ヴィーナスプロジェクト"の名の元にワインを海底に沈めて熟成させる。誕生したワインを"サブリナ"という名で、広く人々の喉を潤すなんていうのだから、もうボクの知りたい欲求にブレーキが効くわけがない。早速"サブリナワイン"でネット検索だ。すると、出てきたね、楽天市場に。
 そこでさらにキーを叩くと、"ヴィーナスプロジェクト"は楽天市場の『ショップ・オブ・ザ・イヤー<ワインジャンル>』の常連、大阪のワイン・食品類の輸入販売業の株式会社ワインプレスインターナショナルが、神奈川県の株式会社コモンセンスとコラボレーションしてできたロマンあふれるプロジェクトであることがわかったのである。

 すると、案の定である。"ヴィーナス"というのはギリシャ神話に出てくる美と愛と豊穣の女神である。海の泡から誕生した女神ということで15世紀のサンドロ・ボッティチェリが描いた貝殻の上に立つ裸体『ヴィーナスの誕生』があまりにも有名ではないか。ちょっと若い頃の話になるが、中学校の絵画の時間で始めてこの絵を見たときはドキッとしたものである。その時、先生は言われたのである。「そんな目で見るものではない。情熱の象徴である西風に乗って新しい生命が誕生したんだ。生まれたからといってなんでもありではない、恥じらいを持ちながら清く正しく生きてるんだということを伝えているんだ。左側の女性が花のコートをかけながら戒めているんだ。右側の女性をよく見なさい」と。

 

あの若かりし頃をくすぐられた"ヴィーナス"だ。そこに持ってきて追い討ちをかけたのが"サブリナ"だ。やはり、ボクらの青春時代のシンボルだったオードリー・ヘップパーンさん主演の『サブリナの恋人』の清らかで純真、麗しき女性がよみがえってくる。
 後でわかったのだが、このサブリナは英語で綴るとSABRINAであるが、海底熟成ワイン"サブリナ"は英語で綴るとSUBRINAで、潜水艦を意味するSUBMARINEの頭のサブをいただいたということである。そこには、まさに青い海での深い眠りから覚めた麗しい女性というるロマンが込められているのだ。

●生みの親と育ての親で作り出した、豊穣なワイン。

 "ヴィーナス"に、"サブリナ"。もうこの名だけで、海底熟成ワインに対するこだわりが見て取れるではないか。ここは、このプロジェクトのワイン選定者、ワインプレスインターナショナルの辻 春美さんにお会いしなければだ。
 「SUBRINAワインへの思いは一つです。海底に沈んだワインが引き上げられ、その豊穣な味わいが世界のトップニュースになりロマンと夢を与えているのを知って、海とお酒との関係を浮き彫りにしたい。現代の海底ロマンストーリーを世に出したいという思いでプロジェクトに参加しました。

前哨戦として、コモンセンスチームが、約2年、沖縄などの海底でワイン、日本酒、焼酎など異なる種類の酒を海底に沈めて熟成実験を試みていたのですが、引き上げたボトルを当社で試飲し官能検査を行ったところ、赤ワインが最もポジティヴな熟成の影響があるという結果が出ました。そこで、本格的にチャレンジしようということになったのですが、赤ワインにもさまざまありますよね、その選定にあたっては徹底的にこだわった結果、南アフリカのCloof社のシラーズを原料とする赤ワインに到達したんです」

 Cloof社は国際的にも高い評価を得ているワイナリーである。シラーズというブドウは昼間は強い日差し、夜は大西洋から吹き込む肌寒い風という寒暖の差が非常に激しい所で育った酸味が豊かで、長期熟成に向いた品種だそうである。辻さんの言葉を借りれば「香りの高さ、色合いのよさ。温かみがあって個性的。ひとたび飲んだら、忘れがたい永遠の恋人という印象です」ということである。
 生みの親が決まれば、今度は育ての親へのこだわりである。これは、コモンセンスの専門領域で、言わく、こだわったのは海底の透明度。そのため、日本ジオパークに登録された自然が豊かで透明な海ということで、伊豆半島の南端、奥石廊崎の沖合いに決定した。潮の流れも早い黒潮で、絶好のロケーションなのだ。
 場所が決まると、さぁ沈めるということだが、その前にブドウから熟成に至るワインの製造工程を紹介いただいたので、その流れを簡単に記しておこう。

一般的に、市販されているものは、ブドウの生産年に収穫醸造し、翌年ビン詰され、しばらく貯蔵された後に出荷されていくが、"SUBRINA"はこのビン詰めされたものをさらに旨みを引き出すためにより年月をかけ寝かし、さらにワインの熟成にとって非常にハードな条件の海底で、あえて熟成させるというプロセスをとられたのである。

●海底熟成ワインへのこだわりに、こだわりのワイン通も絶賛。

 ところが、いざ海底にワインボトルを沈めるとなると一つの問題があったそうである。というのは、ボトルをそのまま海に沈めると、水圧によってコルクはビンの中に押し込められてしまうので、それを防ぐための密閉方法をどうするかの問題である。だが、その解決にあたっては鉄道総合技術研究所に協力いただき、海水中の耐圧試験をおこなって、深度100メートルでも海水の浸透がないシーリング方法を確立されたのである。
 また、コルクの臭汚染の予防のために最新のDIAMコルクを使用する。さらにボトルについても徹底的にこだわり、ボトルは衝撃や光りのストレスに耐えるように厚みと長さのあるものにする。海水によるラベルのはがれを防ぐためにサンドプラストでの刻印を行う。ボトルを海底に沈めると石灰藻が附着するが、逆にそれを海が描いた自然アートという感覚で生かしていくなど、海底での熟成がそのままテーブルに届くようにされたのである。

そして、これでいけるという確信を得て、2012年11月に、6000本のワインを(熟成期間2ヶ月もの・4ヶ月もの・6ヶ月もの)奥石廊崎沖、水深20メートルの所に沈められたのである。それから5ヵ月後、2013年4月、東京の青山において、プレス、南アフリカ大使館関係者、南アフリカの生産者、ソムリエ協会の会員やワイン通らを招いて4ヶ月ものの試飲会『地上セラーでの熟成SUBRINAと海底熟成SUBRINAとの飲み比べ』が、華々しく開催されたのである。海底で熟成されたフジツボが付着したワインボトルである。"まさに、眠りから目覚めると、色とりどりの宝石が散りばめた乙女が誕生したようだ"の声が飛びかったそうで、その時いただいたという海底熟成ワインに対する感想コメントを紹介しておこう。

・セラー熟成のものは元気一杯という香りだが、
   海底熟成はゆっくりと鼻に通ってきて味もまろやか
・アルコールの刺激が穏やかである
・角が取れて滑らかである
・香りが開き、味わいが調和し、一体感がある

●ロマンは人間の生きる力です。

 試飲会後に6ヶ月ものも引き上げ、その年の11月から販売を開始されたのだが、たちまちのうちに評判が評判を呼んでワインの表舞台に立っていったそうである。すると、下衆のかんぐりだ。「お値段は、いかほどですか」なんて辻さんに伺ってみた。「現在は4つのタイプがありますが、主は、石灰藻やフジツボが多く付着したAタイプの12,000円と、ほとんど附着物がないBタイプの10,000円です。ある面では高価だと思われるかも知れませんが、ワインに対しては特別な想いのお客様が多いんですね、おかげさまで"ハレの特別の日ぐらいはこれで"ということで・・・」

何かわかるような気がする。選び抜かれた芳醇なワインで豊かな時間のひと時を納めておきたい。いや違う、海底ロマンの申し子で我がロマンを永遠にという思いもする。
 あの渡辺さん流に言えば、「ロマンは人間にとって最高の生きる力だ。その背中合わせにあるのはすべての面における"生きることへの、こだわりだ"と言われそうだ。そういえばワインは育てる飲み物というではないか。ここは一転して、そのワインに育ててもらうなんていうのもいいぞ。"よし、今宵は少しロマン切れの我が身に"SUBRINA"一本張りこむか。



文 : 坂口 利彦 氏