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こだわり人[2014.07.10]

街で見かけた、"こだわり散歩"

 また一つ昭和の火が消えるとなると、ついつい足が向く。2020年の東京オリンピックをめざして、あの国立競技場(東京・千駄ヶ谷)が5月末をもって幕を閉じたのだ。もちろん新たな競技場への期待は広がるが、昭和32年の誕生を機に日本のスポーツ文化の総本山として果たして役割と、その競技場の脇を走る外苑西通りのことを思うと 、もうじっとしていられない。というのは、外苑西通りは"こだわり通り"として親しんできたが、 2020年の東京オリンピックによってあの界隈も劇的な変化をすることを思うと、いま一度、目に 焼き付けておかなければだ。
 ということで、今回はちょっと趣を変えて外苑西通りで見たこだわり散歩にWeb同行なんて いかがでしょうか。

 

こだわり人 ファイル029

街で見かけた、“こだわり散歩”
東京都・外苑西通り

●懐かしさもあり、新たな発見もあり。

 観客席から熱い声援を送ったこともあるし、イベントなどで競技場の裏で汗を流したこともある。この心に刻まれた国立競技場をいま一度、頭に叩き込んでおこうとゆっくり徘徊して1時間。後ろ髪引かれる思いで外苑西通りに出た。
 振りかえると、"ああ、また一つ昭和のこだわり施設に幕が下りるのか"と思うと、再び胸が締め付けられるが、その締め付けをゆるめるようにあのこだわりのラーメン屋「ホープ軒」が目に飛び込んできた。店主と何度か話したことがあるが、ラーメンに対するこだわりは半端じゃない・"たかがラーメン"と言うなかれ、"されどラーメン"と言う"熱い思いにはいつも拍手を送っていたものである。

 あい変らずの行列だ、こだわりの暖簾が綿々と受け継がれてきた姿を見ると、それまでの感傷的な気分は一気に吹っ飛んでしまうではないか。

 信号を越えると、1969年に設立された音のこだわりの殿堂『ビクタースタジオ』だ。何度か中に入ったことがあるが、その空間や設備は圧巻だ。音づくりのプロが究極のサウンドクオリテイーを提供されている。桑田佳祐さんのサザンの曲はほとんどここでレコーデイングされているそうだが、日本プロ音楽録音賞を20数年間、連続して受賞されているというところに音へのあくなきこだわりが垣間見られる。ちょっと首を傾けて音に聞き入るお馴染みのビクター犬がスタジオ前に置かれているが、ついついカメラのシャッターを押し続けるというものだ。

 青山通りに向ってゆっくりとした坂道を上っていくと、インテリア家具、レストラン、ファッション、雑貨・アクセサリなどのショップが次から次へと目に入ってくる。いずれもメッセージ性があってオーナーのこだわりを感じさせられる。中でもインテリア家具ショップは印象的で、ついついお店の人に話しかけている。下町の伝統的な和の香りのお店などと違ってモダンで、シャープ。ある面では研ぎ澄まされてちょっと近づきがたいが、ものづくりに対するこだわりには何か相通じるものがある。インテリアデザイナーや家具職人さんの丹精を込めたものづくりへのこだわりに魅せられてしまうばかりである。

●それぞれが、それぞれの形でこだわっている。

 交差点脇にある『CARL HANSEN&SON』。その対角線上にある『HAUSKA』。お互いインテリア家具への熱い思いを見てとれる。気になるのは"すべての人に等しく優しく"をコンセプトに、ハイエンド家具や空間を提供する『AREA』の姉妹店としてオープンした『HAUSKA』だ。自然の森をテーマにした店内には、素材にこだわったオリジナル家具や選び抜かれた一枚板テーブルが高みのあるライフスタイルを夢見させてくれる。応対いただいた方の言葉一つ一つにもこだわりがあり、まさに家具コンシェルジェという趣で、家具から始まる暮らしの夢がどんどん膨らんでいく。いい家具と向かい合いながら仕事をしていると、心の芯まで豊かになっていくんだろう。いい笑顔だ。

 やっぱり外苑西通りのこだわりは顕在だ。よし今日はこの通りの空気感をたっぷり吸っていかなければと先を急ぐと、こだわりの『ワタリウム美術館』だ。国際的なコンテンポラリーアートを展示する私設の美術館だが、オープンした時から、ここで行われる展示会は一味違っていて魅せられてきたものである。1階では芸術書やポスターカードなども販売されている。すべてに館主の鋭いこだわり感がある。陳列ケースの上には何とこの王国のコラム(008)でも紹介させていただいた寺田 尚樹氏の『テラダモケイ』が並んでいるではないか。そばにいた若いカップルがそれを買っていくと、思わず我がごとのようにうれしくなってくる。
 館主の和多利 浩一氏はこの街の広報誌『青山時間』の中でも書かれているが"常に、時代のエッジを走っていきたいですね"という言葉に、この美術館ならではのこだわりにまたまたニンマリだ。

 ここで少し言葉を付け加えさせていただくと、この3月に亡くなられたイラストレータの安西水丸氏のことである。というのは、安西さんとはこの美術館で何度か隣合わせたことがあり、イラストへのこだわりはもとより自然体で生きることへのこだわりを幾度となく教えられたからである。素朴でほのぼのとしたイラスト同様に、“何をそんなに先を急ぐの。ゆっくりと行きなさい”と励ましてもらったものである。改めて合掌だ。
『ワタリウム美術館』の向い側にはやはり王国のコラム(こだわり人006)で紹介させていただいたスペースデザイナーの小坂 竜氏の事務所がある。あい変らず世界を舞台に図面と向かい合っておられるんだろうと勝手な想像だ。それからさらにいくと。『ロイズ・アンテイークス』、『IDS  OTSUKA』、『ACTUS』と、気になるインテリアショップが揃い踏みだ。それぞれ自分たちの持ち味をこのこだわり通りで“勝負、勝負”ということなのだろう。


●それでも時代は先へ、先へと進んでいく。


 やって来ました青山3丁目の交差点。まさにここはこだわり通りの先駆けとなったところである。右側に男性のファッション時代の先駆けとなった『VAN』があり、左側に女性のファッショントレンドのリード役を担った『ベルコモンズ』があったのだ。いまは両社ともなく、今は昔ということだが、ボタンダウンにネイビーブルーのジャケット。VANスタイルでボクらは大人になっていったのだ。
 一方、『ベルコモンズ』はあの黒川紀章氏が設計されたのだが、日本のファッションビルのやはり先駆けで、この界隈のランドマークだった。"都市の中の丘"というコンセプトで構成されたフロアや階段も印象的で、ファッショナブルな女性はもとより、時代の新しい空気に触れたい男たちも惜しげなく立寄ったものである。まさにこの交差点には時代の最先端を行くという熱いこだわりが凝縮されていたのだ。
 ここまで来ると、もうボクの足にストッパーがかからない。横文字やカタカナが多いこの界隈で、昔ながらの屋号で世に云う商いをされているお店に立ち寄らなければだ。
 お店自体は瀟洒なビルに変わっているが。創業時の屋号が逆にモダンに思えてあいも変わらず心が和む。創業1582年、甲州印傳の伝統を今に伝える 『印傳屋 上原勇七 青山店』、明治27年の創業以来の製法で豆菓子を売る『青山但馬屋』。それに青山但馬屋より1年早く開業された『安藤商店』、いずれも伝統を守っていくこだわりに教えられる。
 なかでも安藤商店は、青山通りに面した所は荒物屋。床続きの奥に行くと昔ながらのしもた屋風の店舗で、"建築金物 安藤商店"の看板がかかっているだけに魅せられてしまう。
 ビルやマンションが林立する中でのあの存在感。加えて、我がスガツネ工業の建築金物や家具金物なども扱っていただいているだけに、時代を越えて金物と向かい合ってこられたそのえもいわれぬ店主のこだわりに頭が下がる。しばし、金物談議で盛り上がった後、吊り金具を購入させていただいた。

 ちょっといい気分になって表参道に向って再び歩き始めて50メートル。この通りにはなかった真新しいショップが目に入った。何だこの店は。ガラス、陶器、磁器で作られ食器のような商品が入口から奥までびっしりと陳列されている。
 正直、その商品が何なのかわからなかった。すると、いつもの好奇心だ。ドアを開けると同時にアロマの香りがたちまちのうちに我が身を包み込み、青山通りの行き交う車の音をぴったりと途絶えさせたのである 。

なんと、その商品はランプではないか。数にして1000点以上はあるだろう、しかもそのランプ1点1点がモダンあり。クラシックありと、実にアーティスティックなのだ。
 すると、少し戸惑うボクにお店の方が近づいてこられてこうだ。
 「これはフランスの『ランプ ベルジェ』のランプです。ランプはフランスの伝統な香り文化の象徴ですが、ランプ ベルジェはランプを作って116年を誇るランプの老舗ブランドなんですよ。この商品には大きな特徴があって、一つは心を和らげる空気環境づくりの器具として消臭効果やアロマエコロジー効果をお届けしていることです。もう一つはトラデイショナルなアンティークコレクションとしてお部屋などにやすらぎをお届けしていることです。超アンティークブランドのバカラ、サン・ルイ、エミール・ガレなども手がけているんですよ」

●歩きながら。次代への夢を膨らませていこう。

 なるほど、ランプがこんなに存在感があり、ランプにこんなにこだわりがあるとはまったく知らなかった。伝統的でアーテイステイックな文化に圧倒されてしまう。
 思えばランプは スガツネ工業のブランド名『LAMP』でないか。これは嬉しい。青山というファッショナブルな街で、このようなこだわりのあるランプと出会うとは偶然にしてよく出来すぎている。そこで、"私たちスガツネ工業は、ランプをシンボルマークにしているんですよ"と話すと、にっこり笑って"早速、スガツネ工業さんのHPを見てみますね"と言われたからね。
 それにしてもカラフルなランプの存在感はすごい。ある面ではメルヘンチックでもある。明るい光を通じて毎日の暮らしを彩るランプが人にやさしい健康な暮らし、また、心和らぐアーステイックな暮らしを呼び込んでいくなんて。またまた、新たな発見だ。

 街を歩けば時代がわかる。歩行何キロなんてお題目を掲げることもなく、肩の力を抜き、足の向くままただぶらぶら歩くのがいいそうだ。その時、あれは何だと思ったら立ち止まるだけで十分。もしもそこにこだわりを感じて我が身と重ね合わせたらもっといい。脳の活性化につながっているそうである。
 
 となると、今日はこのままもう少し足を伸ばしてみようだ。表参道の交差点のところにある創業120年の『山陽堂』書店によって、あのこだわりの壁面に描かれた竹内六郎さんのイラストを見ていこう。そしてさらに足を伸ばして、骨董通りで時代を越えたこだわりの逸品をじっくり拝ましてもらおうだ。



文 : 坂口 利彦 氏