トップページ > 王国のコラム > こだわり人 "みんなでつくる家"へのあくなきこだわり

王国のコラム

ページTOP

こだわり人[2014.11.25]

"みんなでつくる家"へのあくなきこだわり

 建設業界における工務店という存在が気になっていた.Wikipediaによると、"法律上厳密な定義がないが、主に戸建住宅などを請け負う建築専門の地域産業の建設業者のこと"で、"個人やメーカーなどから請負、専門工事業者(鳶、大工、左官、板金、電気、建具など28業種)の手配、管理その他工事全体を監督する役割を担う"と記されている。となると工務店は、ある面では建設現場などでのこだわり人の総元締めということではないか。
 そんな折に知人から、「岡庭建設株式会社のこだわりはすごい」というメールをいただいた。そういえばこの会社、2010年のグッドデザイン賞を受賞されたということで社名は知っていた。しかも、私事で恐縮だが、我が住む西東京市に本社を置く地域密着型の工務店として気になっていたところである。ということで今回は岡庭建設株式会社に着目させていただいた。

 

 

こだわり人 ファイル033

"みんなでつくる家"へのあくなきこだわり

池田浩和氏(西東京市・岡庭建設株式会社)

●グッドデザイン賞に輝く、地域密着型の工務店

 西武新宿線の東伏見駅から徒歩で7分。都心と多摩を結ぶ新青梅街道沿いに本社を構える岡庭建設。グッドデザイン賞を受賞された折にHPなどを拝見していたので、初めて訪問したとは思えない。入口脇のグッドデザイン賞受賞の看板も、その喜びを素直に地元の人々に伝えようと、微笑ましい。武蔵野の面影を残すこの街の空気を吸い込み、フレッシュな空気に昇華して送り返す生態機能を擁した企業ということか。地域と深く結びついた工務店の細やかな息づかいが入口に立った瞬間からどんどんわが身に入り込んでくる。

 中に入ると、この会社の専務取締役で一級建築士の池田浩和さんに迎えられた。HPにはこの会社の隊長と呼ばれていると記されていたが、ひと目でそれを感受した。住まいづくりへのあくなきこだわりが身体全体にみなぎっている。なるほどこの情熱か。思わずこちらもこの情熱をいただかなければと心すると、池田さんは「私どもの企業理念を最初に」と話されたのである。


 「私どもの住まいづくりは"みんなでつくる家"ということにこだわっています。いい家というのは、住み手の思いに応えて作り手が一体となった時に生まれるからです。設計者、社内スタッフ、施工に携わる職人さん、すべての人が力をあわせて一つのゴールをめざして進んで行きますが、それはまさに家族が一丸となってという感じですね。その結果、家が完成した時の感動や満足感はみんなで共有できるわけですから、"みんなでつくる家"がすべての出発点、私どもの企業理念です」

●理念を形にするアクションプラン

 みんなでつくる家。確かに家は"チームホーム"だ。すると池田さんはその理念を言葉だけではなく、具体的なアクションプランで軌道に乗せていると言われる。
 アクション。好きな言葉だ。そこで、その大要を紹介いただいたのだが、その言葉一つ一つに池田さんの住まいづくりへのこだわりが見てとれるので、その大要を紹介させていただこう。
 「こだわっていますよ。理念を形にという思いで。まず第一のこだわりは、"みんなでつくる家"という企業理念で象徴されるように、岡庭建設で家を建てられたお客様を『おかにわファミリー』と呼んで、同志的なつながりを非常に大切にしています。そうでしょ。岡庭建設に住まいづくりをされたお客様が岡庭建設の住まいづくりの心を最も身近に理解されているからです。これから住まいを建てようとされている方に最も適切な情報を提供していただける方ですからね。家はコミュニケーションの集結ですよ」

 建てたらそれで終わりではないのだ。世に言う"面倒見がいい"のだ。人と人との絆の中から、また新たな成長因子を手繰リ寄せるということだろう。それが企業長寿の秘訣ということに違いない。
 「第二のこだわりは、建設会社としての設計力です。私どもはそれを『OKANIWA STYLE』という言葉を使っていますが、設計力こそが私どもの原点であり、基本だと位置づけています。住まい同様に基本がしっかりと築かれていないと不安定で、先に進めません。ごまかしはご法度です。基本がしっかりできていることがお客様への最大の満足につながっていくことを肝に命じています」と挙げられたので、その大要を要約させていただこう。現場に精通した池田さんならではこだわりに心底教えられるというものだ。

基本1

 自然と寄り添った住まいづくり。石油からできたプラスチックや塩ビをといった新建材を使わない家づくりをめざしておられる。また構造材には国産材を用い、仕上げには無垢材や珪藻土、和紙を使うなど、住む人の健康と地球にやさしい家づくりに徹しておられるのだ。

基本2

 安心できる家づくり。構造や気密、断熱といった家の基本性能は建築基準に準じることはもとより、心地よく暮らすために独自の安心基準を設けておられる。完成保証、地盤、瑕疵といった保障も万全で、"安心できない住まいは、家ではない"という思いである。

●"家づくり"と"家まもり"が双頭の剣
基本3

 住みつなぐ家づくり。家は20~30年という短いスパンでとらえるのではない。"壊して立て替える家づくり"から"次の時代へ引き継げる家づくり"に力を入れておられる。世に言う長持ちということで、住まうことに愛着がわいて大切に手入れできる家を住む人と一緒になって維持していこうとされているのだ。住まいといえば、ともすれば"家づくり"に目が行きがちだが、"家まもり"も重要なファクターであるという池田さんの持論から、両者を双頭の剣と位置づけておられるのである。

基本4

 エコカーのような家づくり。住まいも車と同じようにエコであるという思いから、太陽熱を利用して暖房や給湯を補ったり、住まいそのものを小さくしたり、断熱性や気密性を高めたりと、自立循環型住宅を追い求めておられる。池田さんはこれを「環境に対してローインパクトであることが大事」と説き、省エネ時代の住まいはいかにあるべきかをひたすら追いかけておられるのである。

基本5

 景色をつくる家づくり。住まいはそこに住まう家族だけのものではない。隣近所と調和し、周辺と馴染みながら佇んでいることが重要であるという思いである。結果的にその心ある住まいが街の景観に、さらには地域コミュニテイーにつながっていく"家づくりは街づくり"という池田さんなんらでは街づくりイメージを描いておられるのだ。

基本6

 学び続ける家づくり。住まいへの想いは人それぞれ。時代もめまぐるしく変わっていく。そのため日々新たに自分たちは勉強していかなければならない。同時にお客様も購入前も購入後も住まいについて学び続けてほしい。そんな思いから、自分たちの勉強のためには住宅関連のさまざまな組織とのネットワーク化によって視野を拡げ、自分磨きに徹しておられる。また、お客様のためには家づくりポイントが学べる『家づくり学校』を開校されている。商売気をまったくなくし、あくまでも快適な住生活の応援ということなので大好評。すでに受講者が600人を越えているそうである。「情報の差が快適な暮らしに比例していきますよ」と言われると、とにもかくにも一度、受講したくなるというものだ。

★池田さんのネットワーク化へ想いは熱く、工務店の全国組織である全国工務店協会<JBN>の役員をし、自社はもとより業界の先導的な役割を果たしておられる。

★『家づくり学校』は、2007年から始められておられるが、そのパブリックな事業展開に対し、西東京市は一店逸品として認定している(平成25年)。http://www.okaniwa.jp/ippin

●"家は一生もんだから、ほっておけません"。

 6つの基本モジュールを紹介させていただいた。まさに「OKANIWA STYLE」ここにありということだろう。その真摯な思いが、いや、アクションが対外的に認知されたというのが先に紹介させていただいたグッドデザイン賞ということだろう。私自身歴代のグッドデザイン賞に目を光らせてきたが、工務店がこの賞を受賞したというのは他になかったと思う。それだけに岡庭建設に改めて拍手だ。入口前のあの看板への思いがわかるというものだ。
 「おかげさまで、正直うれしいですね。旧通商産業省が創設した(1957年)伝統のある日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨の制度に認められたということですからねぇ。その受賞理由も、「もの」だけではなく、『こと』という私どもの活動も含めてのことですから感激もひとしおでした。これまでやってきたことに間違いはない。この賞の重みを次代へつなげていかなければならない。表のあの看板はある面では私たちに向けた戒めのメッセージ看板だと思っているんですよ」
 受賞と言えば、もう一つ紹介しておこう。東京ガスが主催されている『住まいの環境デザイン・アワード』である。2011年には地域の気候や風土や特性を活かした良質な住宅ということで『ビルダー部門賞』を。また、2013年にはくらしの家~農・食・住を伝える暮らし~ということで『環境デザイン優秀賞』を受賞されている。

 ともすれば、街は中央で作られていく時代だ。地域のことは地域でという声は高まるが、いま一つ進まない。この国が抱えている高齢少子化、経済格差、エネルギー等の問題。また。各自治体のインフラの整備、土地の有効利用、地域産業の新興、地域コミュニテイーといった問題。さらに最近は街の老朽化や空き家対策といった問題が俄然、クローズアップされてきている。私たちの周辺にはあまりにも不安材料が多すぎるのだ。
 そんな中で、地域に密着しながら人々の毎日の暮らしの出発点である"家づくり"、"家まもり"を事業とする工務店の役割が極めて高いと思えてならない。
「そうなんですよ、私たちは単に物理的な家を作っているだけではないんです。時代と向かいあい、人々の毎日の暮らしと向かい合い。人が生きている原点にいるんですね。また、地域活性化という言葉がよく言われるが、大事なことはそれを現場レベルでどう具体化していくかということですね。そういう意味で、私どもの経験やサクセスストーリーがお役に立てればといつも思っています。私どもの打ち下ろす槌音を住まいに止まらず、人々の心の中に響かせていきたいんです。これが私の最も大きなこだわりですよ」

 嬉しいね。池田さんの熱い想い。そこには従来的な大工さんの延長線上の工務店という姿はみじんもない。また、机上の言葉だけでもない。あるのは人々の暮らしを身近に見つめ、受け止めてきたという地に足の付いたものがあるということだ。「家は一生もんですよ。ほっておけません」この言葉にすべてが凝縮されている。池田さんの顔にカメラを向けて「この街から。何か新しい住まい文化や街文化や人間文化が生まれていきそうですね」と申し上げたら言われた、ね。

「2年前からこの建物の横を開放して、地域のお店や人に集まってもらって人と人との触れ合いを促すマルシェ『庭之市』を始めたんですが、老いも若きもいい笑顔ですよ、来春にも行いますから、是非、立寄ってみてください」



文 : 坂口 利彦 氏