こだわり人[2016.07.21]
熱き、3Dプリンタの伝道師 / スマイルリンク株式会社 大林万利子氏(東京都・大田区)
情報を送ってくださる東京・大田区の方から、“6月22日から始まる『日本ものづくりワールド2016』に出展される大田区のスマイルリンク株式会社の3Dプリンテイング事業をご覧になるといいですよ”の案内をいただいた。この展示会は、機械要素技術展や設計・製造ソリューション展や3D&バーチャルリアリティ展などを統合化した展示会だ。いずれも各展示会は第1回から見てきたので、今年もまた行こうと計画していたところ。そこに3Dプリンテイング事業を展開されるスマイルリンクなんて、これはラッキーということだ。

スマイルリンク代表取締役 大林万利子氏
というのは、3Dプリンテイングは創成期を過ぎて、いまや本格的な発展期に突入。日本の得意技とする射出成型や鋳造や切削加工といった技術と一体となって製造現場に大変革をもたらしつつあるというからである。また、スマイルリンクの大林万利子代表取締役は雑誌『文藝春秋(2016年2月新春号)』で紹介された『日本を元気にする逸材125人』の中の一人ではないか。時あたかも、女性の活躍の場を標榜する時代だ。
ということで、51回という新たなスタートを切った今回は、大林万利子氏に着目させていただいた。スマイルリンクなんて社名もホットでやさしく、大きな輪のつながりをイメージさせるではないか。
■こだわり人 ファイル051
熱き、3Dプリンタの伝道師
スマイルリンク株式会社 大林万利子氏(東京都・大田区)
●魅せられた、ソフトクリームのような成形方法
大林氏とは『日本ものづくりワールド2016』の会場でお会いした。予想通りの凄い人出だ。景気の停滞などを吹っ飛ばす勢いが出展社にも、来場者にも見られ、改めてこの国の前進力に教えられるというものだ。
スマイルリンクのブースも案の定で、大林氏が自ら先頭に立って3Dプリンタの魅力を語っておられる姿はとにかく熱い。まさに“3Dプリンターの伝道師”という立ち居振る舞いだ。母親が我が子を愛しみ育てるように、製造現場だけではなくオフィスや商店や家庭でも日常化していくことを描いておられるのだろうと思うと、こちらまで夢多き3Dプリンタワールドを思い浮かべてしまう。

「日本ものづくりワールド2016」展示場での様子
お客様の関心も高い。寸暇もなく立寄られるので、とても話をじっくりとはいかない。そこで、3Dプリンタの魅力を『マイナビコラム』で“ゼロからわかる3Dプリンタ”という標題で連載されているので、その一部を紹介させていただこう。
大林氏が、この事業を立ち上げられたのは2013年である。それまでは映像機器や事務機器などのワールドカンパニー、キヤノンに勤めて原価管理や広報に携わっておられたが、『携帯型電子機器の壁掛け保持具』で特許を取得し、“ものづくりの街”と言われる都内トップの工場数を誇る大田区で起業されたのだ。もうこれだけで、大林氏のものづくりへのこだわりが見て取れるというものだ。そして同年10月に、自社ブランドの3Dプリンタ『DS.1000』を発表されたのである。

自社ブランドの3Dプリンタ『DS.1000』
「私が3Dプリンタに触れたのは2013年の初めでした。驚いたのはその成形方法です。これまでのプラスチック部品は金型などを使った射出方法で作るのが一般的でしたが、目の前では金型を作らず、使わず、実に簡単に成形物を作っているんです。糸状のプラスチックに熱を加えて溶かせ、上から堆積させていく。すると、溶けたプラスチックは下から冷えて固まっていくんです。その姿はまるで、ソフトクリームを作るような感覚なんです」
●プラスチック成形物の楽々スイスイに驚き
大林氏の驚きは想像するに余りある。こんなに簡単に、ソフトクリームを作るようにプラスチック成形物ができるなら、私も3Dプリンタを作ってみようということになったそうである。余談だが私自身、カタログなどの平面的な印刷物は工場などでよく見るのでイメージできるのだが、型押しや張り合わせや組立でもない。プリンタから立体的な成形物ができるという姿はなかなかイメージできなかったものである。だが、大林氏はこだわられたのだ。自らの手で3Dプリンタを作ってみようと。
というのは、当時3Dプリンタと云えば、流通しているのは海外製で、日本で製造しているのは計測メーカーぐらい。しかも高額だったので、ここはリ―ズナブルな国産品を作ろうということである。しかし、その後のご苦労は察するに余りあるが、大林氏の言葉によれば、“日本人の特徴である高い品質力と精密な技術力が結集”されて、純国産の『DS.1000』に辿りついたそうである。

材料の一つ、フィラメント。
蛍光色など数多く取り揃えている。
「基本的に①パソコン、②3Dプリンタ、③フィラメント、④3Dデータの4つです。順に簡単に説明しますと、パソコンはわかりますよね。WindowsやMacが使えるものです。後でご覧いただきたいのですが、今ではスマホでもOKです。
3Dプリンタは、工業用などで使う大型の何億円、何千万円というものがありますが、私どもは数十万円のリーズナブルでパーソナルな機種に特化しています。
フィラメントは、あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、一言で言うと、3Dプリントするための材料です。私どもはプラスチックを材料にしていますが、材質はABS、PLA、ナイロンが主体で、色も蛍光色など数多く用意しています。工業用などの大型の3Dプリンタにはプラスチック以外に金属や石膏も使用できるものがあります。
3Dデータは部品や装飾品などの成形物を作るための図面データです。自分で作ったデータはもとより、データを作成しなくてもインターネットに10万件以上のデータが公開されていますので自由にダウンロードして使うこともできます」
確かにこれは便利だ。オリジナルの成形物から既製の成形物まで簡単に作れるではないか。大がかりな設備を設けなくても、机の上のパソコンから指示を出すだけで3Dプリンタが起動して立体的な成形物を意のままに作り上げてくれるんだ。その成形物も形や大きさによって時間差はあるが、20センチぐらいの立体部で1時間もかからないというから、まさにプリンティング・イノベーションだ。
●自分の部品を自分で作った話題の新製品『Nt100』
これまでの3Dプリンタと云えば、高価で一般にはなかなか手が届かない。主に大きなメーカーの開発部門やデザイン事務所で使うというのが主体と聞いていたが、そうではないんだ。このようなリーズナブルでパーソナルな3Dプリンタの登場によって、製品開発や試作品の作成が容易になり、ファクトリーモデルやビジネスモデルの進路に新しい光を投げかけたのだ。改めて、3Dプリンタが本格的な発展期に入ったことを教えられるではないか。
先の『マイナビコラム』で大林氏は“3Dプリンタのいいところ”ということで、5つの製品特性を上げておられるのでそれをクローズアップさせていただいておこう。
- 高価な金型がなくてもモノづくりができる。
- 3Dデータはオリジナルでも無料ダウンロードでもいい。
- フィラメントなど材料が低価格である。
- 成形物の内部のメッシュ化によって材料使用量を抑えたエコ製品が作れる。
- 金型費用がかからず、試作品づくりのトライ&エラーが容易になる。
「今ご覧になっている製品が、『DS.1000』に継ぐ第2号機として昨年の11月に発表しました『Nt100』です。この機種の部品の一部は『DS.1000』で作っているなんて凄いでしょ。自分の部品を自分で作っているんですからね」
そうか、そんなことができるんだ。またまた目の鱗が落ちた思いだ。何か、これまでにないものづくりの新しい姿が見えるようではないか。この展示会に来る前にこの製品の特長をHPで見てきたが、やはりその繊細な動きに見入ってしまうばかりだ
周りのお客様もそんな思いだろう。高さ36センチ、左右27センチ、奥行31センチのコンパクトな筐体『Nt100』が作りだす成形物を上から、横から目を凝らして見入っている。
すると、大林氏は『Nt100』へのこだわりとして5つのポイントを上げられたので、そのまま記しておこう。
- ① 導入が簡単(これまで必要だったパソコンへのソフトウエアインストールやUSB接続が不要で、Windows、Mac、スマホなどから自由に使える。)
- ② 大人数による共有利用(ローカルエリア接続や無線LAN接続で利用できる。)
- ③ 高いプリント精度(ヒーティッドヘッドの搭載で、繰り返し造型±0,1ミリの寸法精度を実現した。)
- ④ 出力状況のモニタリング(付属カメラによる出力状況の常時監視や動画録画ができる。)
- ⑤ 多彩なフィラメントの利用(ABS、PLA、PET、ナイロンといった4種類の使用が可能。)
*エンジニアリングプラスチックのPEEK材やカーボン材などの試作にも成功

2号機として2015年11月に、『Nt100』を発表。
至れりつくせりだ。試作品などがいつでも、どこでも、さらに身近にできるようになったのだ。気に入らなければ、何度も作り直せばいいので、納得のできる商品を提供していけるではないか。時にベテランの方でなくても、製品作りにチャレンジしていけるんだ。
●ものづくり新しいパラダイムを描く価値創造人
それにしても大林氏の3Dプリンタへの想いに魅せられるばかりだ。愛しみ育ててきた我が子が着実に成長し、世のため、人のためにどんどん活躍の場を拡げていきなさいという母親のような思いだろう。大林氏が描く夢が、3Dプリンタによる立体成形物のように立ち上がっていく姿がついつい重なりあってくる。まさに、"夢を、形に"だ。
その熱い想いは現在の事業内容からもはっきり見て取れる。自社ブランドの3Dプリンタの開発をはじめ、他社ブランドの販売(UPシリーズや3Dスキャナなど)、3Dデータの作成、3D支援サービス、製品開発のサポート等々、実に多彩である。

また、企業の枠を越え、3Dプリンティングから始まる新しいものづくり像という観点から進められる“ものづくりコミュニテイ”という活動にもはっきりと見てとれる。
「ものづくりコミュニテイ、その第一歩として昨年9月にものづくり工房『おおたFab(FabLab)』を発足させました。デジタル工房として、3Dプリンタを身近に使っていただいたり、大人から子供まで市民のための『3Dプリンタ教室』などを開校しています。
とにもかくにも、これまでとはひと味もふた味も違う新しいものづくりのプロセスに挑みたいんです」
ワンポイント
夏休み教室“はじめて(初めて、始めて)3Dプリンタ教室”を実施されます。
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大林氏のものづくりへのこだわり。未来進行形でそのこだわりを形にしていきたいと言われる大林パラダイム。あの文藝春秋が『日本を元気にする逸材125人』の一人としてクローズアップされたのは改めてわかるというものだ。
「3Dプリンタは製品開発といった枠に止まらず、これからは技術、産業、教育、文化といった分野の必需品として、新しい価値を生み出していきますよ。いや、そうするのが私のミッションです」と言われる大林氏の顔は明るい。まさに、次代へのスマイルランナー、価値創造人の笑顔だ。
文 : 坂口 利彦 氏

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