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こだわり人[2018.01.24]

江戸唐木箸にこだわる老舗の箸専門店 / 株式会社川上商店(東京都・中央区)

年の暮れから新しい年の幕開き期になると、ついつい身の周りを眺めてみたくなる。すると、この1年“感謝”と共に新しい年への“希望”が自然と湧き上がってくる。

希望と言えば、東京都の神宮でさまざまな夢を載せた槌音が響き渡っている。勢い、東京オリンピック、パラリンピックの会場になる国立競技場の建設現場などを見ると、さまざまな想像力が駆り立てられる。2年後には世界のアスリートがここでどんな挑戦ドラマを見せてくれるのか、夢が夢を呼ぶばかりである。世界中の目がここに釘づけになり、世界の東京が一段とその存在感を見せつけることだろう。まさに、インターナショナル・シテイー TOKYOだ。

中央区の方とこんな東京談議をしていると、「“世界の東京”に向かってきわめて日常的な分野でがんばっているこだわりの企業が中央区にありますよ」という話になり、一対の箸を見せられた。手にすると、その箸に『HASHI & TOKYO』と刻印され、「2020年のオリンピックに向けて東京都が国内外に向けて発信する『& TOKYO』の取組の一環で、江戸庶民の昔から愛してきた『江戸唐木箸』とコラボしたんです。中央区の馬喰町にある川上商店という箸にこだわる企業です」だ。

面白い。江戸唐木箸と言えば江戸っ子の気質や好みを活かして、華美な細工や塗りを抑え、黒壇や紫壇などの銘木を材料とするシンプルな箸ではないか。カタログなどを見ると、日本橋で創業以来65年、箸の専門店としての知識とノウハウを活かして国内メーカーの2000種類以上の箸を取り扱っていますと言われると、もうボクの好奇心は全開だ。

ということで、今回は日本橋馬喰町にある川上商店に着目させていただいた。我が国固有の伝統的な箸を東京オリンピックに絡ませるなんて、そのこだわりもお見事という他ないではないか。

こだわり人 ファイル067

江戸唐木箸にこだわる老舗の箸専門店

株式会社川上商店(東京都・中央区)

●日本の景気動向を知るバロメータ、馬喰町

日本橋馬喰町と言えば、何かと気になるところだ。この街を歩けばこの国の景気動向が一目でわかるという経済学者も多い。確かに生活に密着した衣料店や日常雑貨店が軒を並べている。至る所で商品に群がる人や大きなショッピングバッグを手にした人を見かけるし、全国各地のナンバープレートを付けた運搬車や配送車が激しく行き交っている。

銀座や新宿などの賑わう消費地とはまた一味違った趣があって、どこか愛着を覚えるのは何だろう。店先の商品やお店の看板を見ながら歩くのも楽しく、まさにショップハンター気分に酔っていると、お目当ての川上商店だ。

あいにく、社長の川上4代目にお目にかかれなかったが、入社2年目の若い女性が対応してくださった。企業を代表する方もいいが、このような若い方から話を聞くこともいいもので、この会社のポリシーがしっかり根づいていることがわかるというものだ。

「おかげさまで、お箸一筋に65年です。ここは『手もち屋』と呼んでいますが、ショールーム兼販売ショップです。全国各地のメーカーさんの2000種類以上のお箸を扱っていますが、ここには常時、約500種類を展示させていただいています。中でも人気は私どもがこだわっている『江戸唐木箸』ですので、そのこだわりを紹介させてください」

HPで、箸へのこだわりを読んではきたが、やっぱり生の声で聞くのはいいものだ。

「お箸というのは日本人にとってなくてはならない特別な存在ですね。毎日使うものだから自分の魂が宿るものと言われてきています。この国で最初にお箸を使ったのは遣唐使から中国の食事作法を知った聖徳太子だと言われています。以来、現代まで、1400年以上、綿々と受け継いできたのですからお箸は日本文化の象徴の一つですね。また、こうしてお箸をお売りしていますと、お箸に対するお客様のこだわりもよくわかります。“太くて、重くないと頼りない”とか、“故郷の塗りの箸以外使わない”とか、”細い竹の箸でないと持ちにくい”とか、“毎日使うのだから、縁起を担いでここ以外では買わない”とか、実に多様です。ですから私どもは歴史あるお箸への想いと、多様なお箸ニーズにとにもかくにも応えていくことにこだわっています。その数2000種の品揃えというのは、裏を返せば私どものこだわりなんです」

●たかが箸ではない、されど箸ありだ

嬉しいね、このお客様想いは。こだわりとこだわりの共演ということが65年というこの会社の歴史を支えてきているのだ。箸は毎日使うものだ。しかも、口に持っていくものだ。機能性、安全性、衛生性、装飾性、さまざまな要素が集約されているのだ。まさに、この国の食文化の裏に箸ありということだ。たかが箸ではない。されど箸ありということではないか。ある食通が器も箸も味の一つと言っていたが、納得だ。

そこで、こだわる『江戸唐木箸』についてお聞きしたので、その大要を紹介しておこう。

「『江戸唐木箸』というのは、まさに江戸っ子の気質、心意気を映した、厳選した銘木を材料とするお箸です。ベテランの職人さんの手によって一膳一膳、丁寧に磨き上げています。手にしておわかりにように滑らかな触り心地が特徴です。
唐木という名は奈良時代に遣唐使が中国から日本に伝えたからだと言われています。素材としては黒壇、紫壇、鉄刀木(たがやさん)などの銘木が使われます」

まさに、江戸の人々の気質を受けとめて華美の細工をしない、木の良さをそのまま生かした箸なのだ。その種類も豊富で、食材や握り心地などを鑑み『けずり』とか『四方面削り』とか『八角削り』といった箸が用意されていた。特に、「男性を意識した『唐木男箸』などは太くてがっちり持ちごたえがあるので、つい購入してしまった。また、末広がりで縁起がいいと言われる『唐木八角』などは、誕生日祝いなどおめでたい時に贈り物にしようと思ったものだし、先に区の方から紹介された『& TOKYO』の箸も、ここで見るとまた一段と存在感があるし、そばに並んでいた江戸伝統の千代紙模様の『江戸千代紙の箸』も江戸・東京の雰囲気を備えて、何か心揺るがすいい感じだ。

ショールームにはこのほか、輪島塗の『高級箸』や高級アワビの貝を使った『螺鈿のお箸』、さらには、北海道の樺を使った『積層箸』、竹を使った『竹のお箸』、子供に喜ばれる『どうぶつ木玉箸』、さらにさらに、『縁起箸』や『干支箸』や『誕生花箸』や『セット箸』等々、普段、ほとんど気にしなかった箸に、こんな多くの品種があったのか。ただただ多彩な品揃えには魅せられるばかりだ。それぞれをクローズアップして紹介したいのだが、“ここは実物を自分の目でじっくりご覧になるといいですよ”の思いを優先だ。出掛けてみてください。箸の総合デパート、いや、箸のテーマパークの雰囲気に魅了されますよ。

●長く使っていただきたいために、工場との連携プレイ

ところで、このような多彩な箸はどのような工程を経てここに並んでいるのだろうか。川上商店では多様なお客様のニーズに応えて、全国各地にある協力工場に箸の生産を依頼して販売するという形態をとっておられるので、工場によってさまざまな形態があるそうだ。そこで、一般的にWEBや書籍などで紹介されているものを参考記述させていただこう。

  1. 材料の調達
  2. 皮むき
  3. カンナ削り
  4. スライス断ち
  5. 乾燥
  6. 選別
  7. 面取り
  8. 磨き
  9. 最終チェック
  10. 実装
●木材資源の保全にも、尽くしたい

「一口にお箸と言っても、奥が深いですよ。私たちの毎日の食生活に欠かせない伝統的なものですからね。そのお箸を日本の大切な文化として永く使っていただきたい。また、地球環境保全という面から繰り返し利用するという観点から『箸塗り直しシステム』というサービスに力を入れていますので、最後に少し紹介させてください」

川上商店では売りっぱなしということではなく、売った後のことも考えておられるのだ。このシステムは塗直し用の箸を飲食店様などにお勧めし、いつでもきれいな状態で使っていただくことを目的とするサービスだ。
これは、お店にとってもお客様にとっても嬉しいではないか。ここにも川上商店ならではのこだわりを垣間見るではないか。

  • 耐久性の高い木材を使った箸を繰り返し使うので経済的
  • 割り箸などと違って、ゴミが削減できるので環境保全につながる
  • 本格塗り箸という高級感が維持できる

といったことにまたまた納得だ。そのため、塗り直しはより完璧でなければということで、木曽の職人さんに依頼し、木地に生漆を直接塗り込む手法をとって“丹念に”を合い言葉にされているのだ。

「職人さんが手間を惜しまず丹念に塗り直しますので、すでに多くのお客様から喜ばれています。とりわけ、大人数を迎えるホテルや大きなお店で好評です。いつでもきれいに塗りなおしたお箸が使えるということで」

●日本人の箸へのこだわりは尽きない

かつて、箸の語源を調べたことがある(大和言葉で『ハ』は物の両端。『シ』は物をつなぎ止めるの意)。また、日本の箸文化を世界にそして次世代に伝える『日本箸文化協会』や『日本箸道協会』、さらに箸を通じて日本の林業や森林を守る『樹恩ネットワーク』などの団体の活動があるが、嬉しいではないか。まさに日本人の誇りだ。

時あたかも、新しい年を迎え祝い箸が食卓に載るだろう。折れにくくするために柳を使い中央を特に太く作らせた。また、両側が細くなっているのは一方を神様が、もう一方を人が使って、共に食する”神人共食”の印だそうだ。新年を迎えて神様と共に食事してなんて、箸へのこだわりは昔も今も延々と続いているのだ。

文 : 坂口 利彦 氏