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こだわり人[2018.04.10]

ディスプレイ装飾へのあくなきこだわり / 代田橋製作所(東京都・世田谷区)

東京に住んで約半世紀。やはり、東京の行く末はどうなるのだろうか、は非常に気になるところだ。行政は、経済は、環境は、教育は、老後は...。人生100年時代なんて言葉を聞くと、その想いは一層募る。幸いなことに、東京都の発信する広報業務などに携わることがあるものだから、この問題に対する関心は尽きることなく、東京の未来に夢ばかり描いてしまう。

そんな中で、大切しているのが東京都の産業労働局がWEBなどで発信されている『輝く技術、光る企業』だ。別名,“中小企業しごと魅力発信プロジェクト_東京カイシャハッケン伝”と記されているが、この東京から世界に広がっていくTOKYOファーストの底力にワクワクするばかりだ。ともすれば悲観的な情報が飛びかう現代社会にあって、“とんでもない、巷の企業では元気一杯、成長因子に満ち溢れている”と声高に叫びたくなるのだ。

今回、この『こだわり人』でクローズアップしたのは、その魅力発信プロジェクトの中で紹介されていた世田谷区の代田橋製作所という企業である。社名の名の通り京王線の代田橋駅から徒歩で5分。展示や空間構成のディスプレイ装飾物を企画・制作するところだ。広告や展示装飾に関わる我が仕事柄ディスプレイ装飾業界は身近に見てきているが、コミュニケ―ションメデイアの多様化や費用対効果などによって、競争の厳しい状況下にある業界だ。だが、代田橋製作所は創業70年の伝統と経験の上に立って、独自の事業展開をしているこだわりの企業だ。まさに輝く技術、光る企業として、ディスプレイ文化の行く手に明るい光を投げかけているのだ。

ということで、今回の『こだわり人』は代田橋製作所の代表、佐藤 りょうさんに着目させていただいた。

こだわり人 ファイル069

ディスプレイ装飾へのあくなきこだわり

代田橋製作所(東京・世田谷区)

●激戦区で勝ち残ってきた70年の重み

人の流れが絶えない新宿や渋谷から一転。物静かな住宅街の一角にある代田橋製作所。周りの雰囲気に溶け込んだ落ち着いた佇まい。都会の喧騒感はなく、これから生まれ出てくる元気なディスプレイ装飾物に大きな夢を託して静かに熟成させている雰囲気だ。近くには都会のオアシスを思わせる緑豊かな羽根木公園もあり、まさに舞台を盛り上げる脇役たちが今か今かと、その誕生を待ち焦がれているという物語の始まり感がある。

そそこに現れた佐藤さんもまた、穏やかで、この地の空気感をすっかり写し取ったようで、趣がある。好きなディスプレイ装飾の世界で明け暮れしているということだろうか、ディスプレイについては、好きこそすべてという想いが身体全体に溢れている。そばにいた若い社員たちもそんな佐藤さんに魅せられているのだろう、一人一人の動きも元気いっぱいで淀みがない。おそらくそんな行動心が競争の激しい業界の中で、また常に新しさが求められる業界の中で生き延び、創業70年を迎えたのかと、ついつい思ってしまう。

すると、佐藤さん、壁に貼った実績写真などを指し示しながら、「ディスプレイ装飾はコミュニケーション事業の舞台裏を支える私たちの誇りですね。ご存知のように現代のコミュニケーション事業には大きく分けて、新聞や雑誌などのペーパーコミュニケーションとテレビやスマホなどの映像コミュケーション、そして、展示会やショールームなどのディスプレイコミュニケーションなどがありますが、私どもはデイィスプレイコミュニケーションに軸足を置いて、クライアントニーズと来場者や見学者ニーズの融合、発展という観点から心と心の通い合う場面や時間を追い求めているということですね」だ。

「そのため重要なことは、例えば、日本の自動車産業を国内外に示す『モーターショー』などでいうと、出展クライアントが示すメッセージをエンドユーザーの立場に立って、“メッセージの形態化”をはかるということです。具体的にはそれはモノであったり、映像であったり、光や音であったりということで、人間の全感覚をそば立てる構成や仕掛けの世界です」

確かに多くのクライアントがあの手この手で趣向を凝らすのだから、佐藤さんたちの役割の大きさは想像して余りある。まさに激戦区で勝ち名乗りを受けなければならないのだ。「しかも、自ら表舞台に立ってということではではなく、舞台裏の黒子として、ですね。」

●拠り所は『知』と『技術』の一体化

では、黒子に徹するという舞台にはどんな世界があるのだろう。佐藤さんたちが手掛けるディスプレイコミュニケーションの世界を少し紹介してもらおう。

「今や、私たち人間が生きている空間はすべてディスプレイコミュニケーションの世界だと思っています。無限です。住居空間から始まってオフイス空間、文化空間、教育空間、医療空間、運動空間、公共空間、エキジビット空間、商業空間、レジャー空間、人は常に空間の中で、毎日を過ごしているのですから私たちの手掛ける舞台は無限にあるということです」

となると、佐藤さんたちに求められるのは何だろうか。いや、そのような多様な空間づくりのために心がけているこだわりは何ですか、だ。すると佐藤さん、ちょっと照れながら「そのためにはあらゆる空間を、生命感あふれた息づかいのある空間にする構成力と展開力といった『知』の集積と、それを裏付ける具体的な『技術』を持ちあわせているということですね。先頃の冬季オリンピックの開会式なども世界中の人々に感動を与えたようですが、空間構成、進行プログラム、舞台装置の仕掛け、登場人物の動き、光や音楽や映像の演出、すべて、私たちの出番とするところです。ですから社内の若いスタッフたちも、自分でもやってみたいということで、テレビにかじりついていましたね。ある面ではあの開会式は私たちの仕事の生き写しであり、象徴ですよ」

日常的な空間からワールドワイドな空間へ。まさに昔も今も、いや、未来も人間が生きている限りディスプレイコミュニケーションは不変だ。そのために、いま何ができるかということが非常に重要なことだが、その前提となるのはさまざまなモノづくりに対応できる加工技術を備えているのかということだそうだ。

「幸い、私どもはここに着目して、1社で多様な加工技術に対応できる基盤を備えているのが特長です。まさに、こだわりですね」

HPでもそのことが強調されていたが、その現場に案内するというので、これはありがたいことだ。佐藤さんと向かい合っていたミーテイングルームから1階下の制作工房に案内されると、代田橋製作所のモノづくりイメージがさらに深まった。機械器具設備工事業という資格看板のもとに佐藤さんご自慢の加工技術の全容が一望できたのだ。

「ここが、代田橋製作所の原点ともいうべき制作工房です。素材の吟味からはじまって板金加工、木工加工、アクリル化加工、旋盤加工、樹脂加工、FRP加工など多様な加工が意のままです。さらには機器制御装置の制作やそれらを動かすプログラム制作もまかせてくださいということですよ。また、近年はドローンやロボットなども積極的に使ってという時代になってきているので、それらへの対応も意欲的です。制作工房にはもうこれでいいというはないのです。前向きに、新しさにも意欲的にドンドン取り組んでいく、勉強、勉強の世界ですよ。若いスタッフたちもこの工房に入ってくるたびに、ここで培われた自分たちの技術が世界の表舞台で活躍しているなんてと思うと、いつも身が締まると言っていますよ。また、それによって自分探しができるのでありがたいですって」

●モノづくりの根幹が時代を作っていく

こんな声を聞けば、クライアントの方も代田橋製作所なら安心して任せられるということだろう。「制作工房は未来感あふれるサイエンスパークですね」なんて言うと、佐藤さん再びにっこり。ここで作られたものがどんなところで活躍しているのかを、再び写真やパソコンの映像で見せていただいたので、列記しておこう。

私もよく知る科学館をはじめ博物館、企業ショールーム、商業施設、公共施設がある。また、学校の教育施設や研究所の実験装置や模型のきめ細かさはさすがだ。さらに、ホールや劇場の大道具や小道具もあるし、先のモーターショーでいえば、新車の実物と前後左右・上下の動き、回転。さらに車窓から見える風景の映像、照明、音響などが一体となってアグレッシブで、臨場感あふれる空間を構成、演出している。まさに、メッセージをイメージに載せて形態化しているのだ。

短い時間だったが、改めてディスプレイコミュニケーションの舞台裏に魅せられた。そこにあるのは作り手の『知』と『技術』に裏付けされた夢見る力だ。佐藤さんの言葉によると、“どんな斬新なアイディアも、形にならないと絵にかいた餅ですから、どんなニーズにも対応できる知識と、それを推進する技術を持つことがすべてですね”に納得だ。そのためには時代の空気や流れに敏感で、知や技術の研鑽、更新、修得に努め、絶対に立ち止まりは許されないそうだ。

ある面ではモノづくりの根幹はここにあるのだろう。世田谷区の冊子『ものつくりひと』の中に佐藤さんのこんな言葉が載っているので引用させていただこう。

「科学館や博物館のわくわくするような実験、体験装置。コンサートやイベントでお客さんをあっと言わせる仕掛け。ショッピングモールの夢のあるカラクリ時計......。代田橋製作所はそうした人の心をつかむ仕掛けを作る会社です。しかも、それは完全なオリジナル製品です。どこからの借り物ではなく誰もやったことのない、人々に「あっ」と言わせる装置や展示物です。嬉しいのは、そんな装置を見た時のお客さんのおどろきの表情です。私どもはこれからも人にまねのできないワクワクを届けていきますよ」

そういえば、帰りに代田橋の駅から新宿の高層ビルを見ると、西日を浴びたビル群が1枚の風景画のようになっていた。そのキャンバスに描かれた都会の裏側に佐藤さんの言うような『知恵』と『技術』がシッカリと根付いているかと思うと、我がワクワク感は高まっていくばかりではないか。すると、これからも時代の舞台裏で夢を絶やさないで、“輝く技術、光る企業”であり続けてくださいとう言葉が自然と口に出たものである。

文 : 坂口 利彦 氏