トップページ > 王国のコラム > こだわり人 息づく、悠久のロマンへのこだわり / 木組み博物館(東京・新宿区)

王国のコラム

ページTOP

こだわり人[2019.12.13]

息づく、悠久のロマンへのこだわり / 木組み博物館(東京・新宿区)

都会の色づく紅葉もいい感じだ。早稲田通りを高田馬場駅に向かって歩いていると、陽来復の神様の穴八幡宮から色づく枝葉が伸び、都会に穏やかな彩りを与えている。すると、神社の隣のビルの上部にかかった『木組み博物館』(新宿区西早稲田)という小さな看板が目に飛び込んできた。

そうか。ここにあったのか、だ。新宿区がミニ博物館として認定している文化博物館だ。時々、この名をHPなどで見ていて、いつか訪ねてみようと思っていたので、直ちに中に飛び込んでいった。

木組みという伝統的なこだわりの建築技術が手にして味わえるに上に、穴八幡宮というロケーションも気になっていたので、ビッグな立ち寄りチャンスがやってきたというものだ。すると、受付窓口に座っておられた渡邉邦男さん(渡辺設計工房・主宰)が館長の谷川一雄さんに連絡されたのだろう。HPなどで見慣れていた谷川さんがすぐさま来られてにっこりだ。木組みのこだわり技術を伝えたいという谷川さんの想いは何度も見聞きしていたので、ボクのハートにたちまちのうちに火が点いたということだ。目の前に拡がる木組みが一斉に立ち上がって心地よい音色を奏でるような雰囲気なのである。

ここは、この多彩な木組みに囲まれた谷川さんの熱い想いを伝えさせてください、だ。谷川さんは清水建設の一級建築士として、穴八幡宮などの伝統的な木造建築に携わられてこられたのだが、定年を機に日本の伝統的な木組み技術を多くの人に伝え、これからも残していきたいという想いから私財を投じて、このこだわりの『木組み博物館』を設けられたのだ。その真摯な想いには新宿区も大拍手。新宿区指定ミニ博物館に認定されているというから今回のこだわり人は館長の谷川一雄さんに着目させていただいた。その情熱あふれる熱い想いを共感、共有してください。

こだわり人 ファイル087

息づく、悠久のロマンへのこだわり

木組み博物館(東京・新宿区)

●日本の伝統的な木造建築技術に魅せられて

館内に入る前から木組みのドラマが始まっているということだろうか。博物館に至る廊下やエレベータ前に置かれた大小さまざまな木々に迎えられると、木々の香りも心地よく、木組みに対する愛着が一気にかきたてられる。組み手もいろいろ、表情豊かな木々が次から次へと目に飛び込んでくる。すると谷川さんが木組みの誕生について、愛しむように言われたのである。

「木組みは伝統木造建築において木と木を強固に組み合わせる、日本が世界に誇る技術です。歴史を遡れば4000年前の縄文時代にさかのぼり、6世紀になると仏教の伝来と共に大陸から入ってきた建築様式と技術を取り入れて、大きく発展していきましたが、そこには自然に恵まれたこの国の風土に育つ質の良い木材と優れた日本人の感性と腕の優れた大工技術があったからです。
 木組みは長さ方向に直線に繋ぐ『継手』と直角や斜めに繋ぐ『仕口』に分類され、4000種類もの技法がありますが、この博物館ではその木組みの全容を実物や模型を手にしながら学べるのが大きな特徴です。従来の展示中心型、五感体験型から脱して、能動的で深く心に刻まれる参画型の博物館をめざしています。来館者が伝統・技術に触れて、“自分も将来、こんな仕事をやりたい”と思ってくれる子供たちが増えることを願っています」

小屋組みの模型展示(左)・「彫刻・彩色」の超絶技巧(中央)・錺(かざり)金物も展示(右)

木組みに対する谷川さんの慈しみのある熱い想いに改めて、魅せられるばかりだ。第1室、第2室という2つの部屋に別れた展示室には谷川さんの木組みに対する情熱が満ち溢れている。一級建築として社寺建設などに38年間関わって来られ、定年後、同僚らと木組み博物館を立ち上げられたのだが、思いは一つ「伝統建築の文化を残したい、知ってもらいたい」ということだったそうだ。今風に言えば谷川さんの豊かな“木組み愛”ということだろうか、改めて木組み文化の多様性、精巧性を語り続けていきたいという想いに敬意を払いたいばかりだ。

なかでもあの昭和の宮大工の大棟梁と呼ばれた西岡常一さんの下で一緒に仕事をした八田棟梁が作った「薬師寺三重塔」の大型模型は圧巻だ。西岡さんに谷川さんが重なりあって木組みの火は絶対消していけないという想いがひしひし伝わってくる。思えば大阪にいる頃、中学校の時に遠足で薬師寺三重塔を訪ねたことがあるが、(当時は先生に言われるまま子供心に、カメラに収めたことがあるぐらいだったが)、今回、改めて模型を見つめていると感慨もひとしおだ。木組み技術の奥深さ、華麗さにしばし目が離せなくなっている。思わず「谷川さん、ありがとう」と拍手を送っていたね。

●日本人のこだわり文化の象徴だ

すると、谷川さんが自ら館内を案内くださったので、その大要を紹介させていただこう。展示されているものはほとんど自分の手で触れられるのが有難い。木の多様な存在感に改めて魅せられると共に、この国の伝統的な木組み文化の火は消えない。永遠だという想いに改めて掻き立てられるではないか。コンピュータなどがない時代にこれらの多様な木組みに立ち向かっていたというのだから、そこに込められた知恵と技術を継承していかなければならないと思わされたので、その大要を写真で紹介させていただこう。

  1. 木は生きている、木の年齢を示す年輪。
  2. 木組み、ほどき(解体のこと)が自在にできることを体験。
  3. 触れられる穴八幡宮隋神門の柱頭(実物大)。
  4. 薬師寺三重塔(西塔)の初重斗組み模型。
  5. 年輪を活かした一枚板。
  6. 千年も前から使われてきた和釘。
  7. 伝統木造建築の中で使われる建具金物の数々。
  8. 12,000年以上も前から続く漆の技術が、現代へ。

まだまだ、紹介したいものが数多くあるが、自ら足を運んでいただきたいものだ、改めて木組み文化の奥深さ・昔の人の創意工夫に唸らされること間違いない。「木の国の日本」に改めて魅せられるというものだ。谷川さんの言葉の節々や動作に、そんな思いが満ち溢れている。すると、谷川さんはこんな言葉でこの木組み博物館のこだわりにはもう二つ見どころがありますと、言葉を付け加えられたのである。

その一つは木組みに加え、日本的な建築物の特徴である土壁をはじめ漆、鬼瓦、和釘などの伝統的な技術や素材、道具などである。これらは断片的に見たことはあるが、木組みの延長線上で、ここでまとめて紹介されると、日本の建築の奥深さにまたまた魅せられるばかりだ。街に近代的な建築物か次から次へと建っていくが、この歴史の産物に眼をそむけないように、大事にしなさいと教えられているようだ。

それからもう一つの見どころはといって挙げられたのは、この博物館は展示型に止まらず伝統的な建築技法などに親しんでもらうために参画型の博物館をめざしていることだと言われたのである。そうか、それがHPや新宿区の広報誌で時々見ていた伝統建築に関する『ワークショップ』や童話から学ぶ『木組みの森劇場』(2019年12月21日)などの開催だ。先に谷川さんが話しておられたが、次代を担った子供たちが“将来、こんな仕事をやりたい”という想いを持ってもらうための施策なのだ。実際に木を手で触り、工作体験などを通じて木に対する興味、関心、理解をできるだけアップしていこうということなのだ。

「"法隆寺五重の塔"をつくりませんか!」と共に飾られている五重塔模型。
その他にも参画型のイベントなどが充実。

●世界のブランドになっていく

嬉しいね。なるほど、谷川さんの『木組み博物館』に寄せる熱い想いに魅せられるばかりだ。子供の頃に母から“あの人は、奇特な方だ”というような言葉をよく聞いていたが、税金を私利私欲のために使っているなんて最近の風潮を想うと、谷川さんの熱い想いが詰まった『木組み博物館』に心より拍手を送りたくなるというものだ。立ち寄って本当によかった。谷川さんをはじめ伝統的なこの国のモノづくり精神に勤しむ方はまだまだ多くおられるだろう。そのこだわりは揺るがず、着実に生き永らえていくのだ。

いま、日本の林業の行く末にさまざまな課題があることも学んできたが、谷川さんの『木組み博物館』が谷川さんの懐を飛び出し、世界のブランドになっていくことを衷心より叫びたいね。ほら、木組みのメリットは多く、衝撃を受けても倒壊の影響が少ない。建物の増改築や修理が容易である。木材の再利用が可能で、環境に良いサイクルが生まれるではないか。

再び、穴八幡宮の社殿に出て、「令和という伝統と未来が融合した明るい時代の兆しも見え始めています。ある面ではその一つの象徴である『木組み博物館』にご多幸を」と自然と手を合わせていたね。

ワンポイント
十月八日は木の日です。十と八を組み合わせると木になるところから。
木の良さを見直す日になっている。

文 : 坂口 利彦 氏