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こだわり人[2020.03.19]

伝統から生まれたこだわりが、世界ブランドに / タマノイ酢・東京本部(東京・新宿)

創業90周年。2020年の2月を迎えた我がスガツネ工業である。ありがたい。おかげさまで多くのお客様のご贔屓の賜物である。そんな折にある新聞が創業100年を迎えた企業が日本にどれぐらいあるのかを紹介していたが、ぼく自身、多くの企業の創業記念事業に携わってきたので、やはり気になるというものだ。かつて経済企画庁の長官などを歴任された堺屋太一さんからお聞きしたのだが、そこにあるのはその企業を引っ張る事業者の統率力とその行動を支持する社員の支援力の賜物だと言われたのだ。

納得だ。その間、相次ぐ戦乱の勃発、各地で起こった大震災、昭和大恐慌、バブルの崩壊、石油危機...などなど、明治から大正、昭和、平成、令和といった時代の移り変わりの中に数々の困難な出来事があったが、改めて存続、維持、躍進に務めてこられたことに大拍手だ。

そんな折に、遠方より友ありだ。ボクの故郷、大阪の友人からちょっと気になるメールが送られてきたのである。「大阪の南の、あの伝統な街、堺市に本社を構える食品メーカーのタマノイ酢という企業のこだわりは一見に値する。先頃、創業113年を迎え、キミが我が町のように親しんでいる新宿のセンタービルに東京本部を設けてこだわりのある事業展開をされているのだ。特に社長の播野勤氏は凄い。1991年から社長を引き継いでもうすぐ30年になられるが、全くブレずに、今で言う“社員の働き方開拓”をどんどん進め、食品の世界に独特のこだわりを見せておられるのだ」

タマノイ酢は大阪にいる頃は母親がいつも使っていたし、堺は“ものの始まりはなんでも堺”の名で、地元産の刃物、お線香、和ざらし・浴衣、和菓子、敷物、自転車などなどを提供してきた所だ。かつては“東洋のベニス”なんて呼ばれ、日本を代表する一大貿易都市として独特の堺産業、堺文化を育んできている。また、堺はここに来て、仁徳稜古墳が日本最大の前方後円墳ということで世界遺産に認定され、地元に新たな活力をもたらしている。

これを後押しするように先頃始まったNHKの大河ドラマ『麒麟がくる』の第1回では、かつての堺の賑わいのある市井を明智光秀が散策していたが、伝統ある土地にしっかりと腰を降ろすタマノイ酢に魅せられるばかりだ。

そういえば東京都のWEB『カイシャハッケン伝』でもクローズアップされていて、その熱くて真摯な事業力が紹介されていた。これは行かなければ、だ。しかも東京本部のある新宿センタービルは、よく通った大成建設のビルだ。あれやこれや、何かお膳立てが揃っている。ということで、今回のこだわり人は堺に本社を構える113年企業のこだわりに着目。新宿の東京本部を訪ねさせていただいた。

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伝統から生まれたこだわりが、世界ブランドに

タマノイ酢・東京本部(東京・新宿)

●酢の発祥地、堺の伝統を生き永らえて

食品と言えば、何といっても取り扱い品種に加え、素材と製法へのこだわりが生命だと言うことをしばしば耳にして来た。それだけに食品メーカーの一挙手、一挙手に眼が離せないのだが、タマノイ酢はその名もずばり醸造酢、粉末酢をはじめ、各種調味料、レトル食品・菓子健康飲料などの製造、販売を行っておられる。現在の主要製品は、はちみつ黒酢ダイエット、すしのこ、パーポー、穀物酢、米酢、黒酢などだが、いずれも113年という長い歴史から生まれたこだわりの逸品だ。

ご案内いただいた広報部 原田氏(左)と、訪れた東京本部のエントランス(右)

すると、気になるのはやはりタマノイという名前なので、案内くださった広報部の原田さんに伺ってみた。

「酢は酢酸菌の発酵作用を用いて作る発酵調味料ですが、記録に残るものでは紀元前5000年前のバビロニアには酢があったと記されています。日本には400年頃、応神天皇の時代に中国から伝わり、最初に作られたのは堺です。そのため、現在も日本の酢の発祥地は堺と言われていますが、1950年頃の豊臣秀吉の時代に『玉廼井』という商標が使われるようになり、今も私どもがこの名を『タマノイ酢』として使っています」

なるほど、愛着のある伝統のブランド名なのだ。歴史を遡れば、1907年に5つの蔵が集まって『大阪造酢合名会社』を設立し、1963年にタマノ井酢株式会社に商号を変え、1994年にタマノイ酢株式会社に商号を再変更。そして、1996年には大ヒット製品『はちみつ黒酢ダイエット』を発売、2007年には創立100周年記念として堺の本社ビルを竣工、2018年には国際的な食品安全マネジメント規格である『FSSC22000』を取得して今日に至っておられるのだ。

●豊富な酢のラインアップ

ところで酢のもっとも大きな特徴である酸っぱさは酢酸だと言われているが、酢の醸造は原料の穀物や果実からアルコール発酵によって酒を造り、そのアルコールから酢酸菌で酢酸を作るのが一般的な製法だ。ではそのような製法からどんな酢が作られているのかをもう少し具体的に紹介させていただこう。すると、原田さんは『農林水産消費技術センター』の小紙を示されたので、そのまま掲載させていただこう。

酢の種類

資料:出典【農林水産消費技術センター】

●至れり尽くせり、健康に優しい酢の効用

一口に酢と言っても素材などによって実に多彩だということを改めて教えられる。ちなみにタマノイ酢は基本的に醸造酢を作っておられるのだが、出来上がった酢は私たちにとっていったいどんな役割を果たしてくれるのだろうか。酢の効用といったことをお聞きした。すると、原田さんは次のように紹介されたのである。

「酢の効用は実に多彩です。皆さまも日常的に感じておられると思いますが、その大要を紹介しますと次のような効用があげられます。

料理の味をおいしくする
酢の酸味は味覚を敏感にするので、酢を加えると肉や魚のうまみが増す。
食欲増進や疲労回復に役立つ
筋肉や肝臓に蓄えた糖が不足すると疲労感を感じるが、酢は糖を燃焼させる。
血圧を抑制し、ダイエット効果がある
薄めてレモンやハチミツを加えると飲料水として効果的である。
殺菌力があり保存性を高める
酢の主成分である酢酸には殺菌力があり、酢漬けやドレッシングなどの副材料になる。
食材を柔らかくする
酢にはカルシウムを分解する作用があるので、肉などを柔らかくする。

まさに、発酵調味料ならでは至れり尽くせり、私たちの身体に優しいのが大きな特徴です」

改めて酢の多彩な効用に魅せられるばかりだ。酢に対するタマノイ酢のこだわり事業に教えられる。まさに酢と向かい合って113年企業という歴史の積み重ねだ。

播野社長

ここに播野社長の熱いメッセージがある。もう幾度となく拝見させていただいてきたが、社長歴30年のおごりなどもまったくなく、あくまでも腰低く控えめで奥行きがある。

「蔵で脈々と受け継がれてきた独自の酢酸菌から生まれる酢は時代を超えて、私たちの食生活になくてはならない貴重な存在として位置づけられてきました。モノばかりが溢れる時代。私たちは“その志し”を受け継ぎ、単に価値ある製品としてだけではなく社員、地域社会、消費者になくてはならない存在でありたいと願って止みません。

人と夢が見えにくい時代、私達の原動力は“繋がり”と“可能性”です。誰かのために何かができる。“誰か”と繋がり“何か”を信じ、求め続けていたい。決して、大層なものを求めているわけではありません。日々の“くらし”の中で、目の前のことに真摯に向き合っていたい。...多様性の中に埋没して行く“個性”と“普通の暮らし”、複雑な社会の中でそれぞれが、それぞれの障害を乗り越え、繋がっている。
一人一人が自分の未来を信じ、たくましく自分の足で立っている。関わる多くの人々みんなが、それぞれの顔で輝きを放っている。日々お互いに、そんな素敵な関係でありたいですね」

●重要な全社員へのこだわり、“自立と成長”

失礼だが、まさに人間、播野社長の熱い想いが込められている。若い頃に日本生産性本部に出向し、経営コンサルタントの資格を取得されたこともおありだが、その多様で人間的ともいうべき経営スタンスが30年という社長職に留めさせたのだろう。地元、堺の産業経済や食品業界の重鎮として熱い汗を流し続けておられるのだ。

すると、原田さんが酢のこだわりから生み出されてきたタマノイ酢ならではマネジメントへのこだわりにも特筆すべきものがあるので紹介させてください、だ。もちろん異存はない。これまでにマスコミ報道などで、その特異なこだわりを目にしていたので、是非、聞かせてください、だ。

そういえば、播野社長は「伝統から現代、そして未来」という観点から“出社したくなるオフィス”をスローガンに掲げ、食品の研究開発と社員一人一人の自立と成長の人間育成に徹底的にこだわっておられた、ぞ。

研究開発については“もっとおいしく健康”を目的に、中央研究所を中心に関連する大学や研究機関と一体となってより高いレベルの酢の基礎研究、例えば、黒酢の抗菌化作用やがん予防効果や高血圧予防の促進、さらには食酢原料の研究などを行い、大きな成果を積み重ねてきておられる。
一方、社員の自立と成長についても実に意欲的で、キャリア制度、フューチャー制度、マネージャー型人材育成といった独創的なプログラムがある。

中央研究所外観(左)と、社員ミーティングの様子(右)

「いずれも社長自らの発案で、社員の自立をサポートし成長因子をどんどん伸ばしていってほしいというものです。これこそは社長の、私どもへの親心であると真摯に受け止めています。100周年の本社立て直しの際に“知的創造空間”と“迎賓館”というテーマを掲げましたが、そこにあるのは社員一人一人の創造性が大いに発揮され、すべてのお客様を大事にしていこうという私どもの心の現われなんですよ」

“知的創造空間”に“迎賓館”その具体的な姿、様子を映像で見せていただいたが、納得だ。社長の熱い想いが企業全体に行き渡り、社員一人一人に浸透していることが随所に読みとることができた。正直、我が故郷の企業が堺に止まらず、首都東京で、いやこの日本で、いやいや世界で食文化の一翼を担っているのが実に感慨深く、ちょっと胸が熱くなったものだ。“若者よ、会社と共に成長していきなさい”という播野社長の愛のある応援旗を改めて身近にしたということだろうか。

そういえば、タマノイ酢はボクの好きなラグビーの名門、神戸製鋼『コベルコスティーラーズ』のオフィシャルスポンサーとしても著名だし、世界のソムリエ、こだわりの食通、田崎真也さんを酢の監修人として起用されて、そのこだわりのある「繋がり」と「可能性」を追い求めておられる。

今日はこのまま馴染の居酒屋でタマノイ酢を使ったこだわりの地元愛で一杯やっていこう。この高層ビルが立ち並ぶ狭間で播野社長の歴史愛、人間愛を再び思い浮かべながらね。何かタマノイ酢の伝統が距離を越え、時間を越えて一気に近くにやってきたようだ。これはボクの地元愛かもしれない。やっぱりこだわり、ありがとうだ。

文 : 坂口 利彦 氏